斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

他人の・自分の「ありのまま」を受け入れる、自己肯定感の低さへの対処法

日本人の中学校2年生は数学の平均点が高いのに、数学が得意だと思っている割合が少ないという話が話題になっていました。

中学2年男女の数学得意率は日本がダントツに低いが、数学平均点は日本がダントツで高い負の相関にある。これはどういうことなのか。 - Togetterまとめ

これを自分は自己肯定感に絡むものかなと考えました。日本の子ども(ひいては日本人)は自己評価が低いという話の一環かなと。

 

 

日本人の高校生は自己肯定感が低い

日本人の子どもの自己肯定感の低さは他の調査でも確認できます。国立青少年教育振興機構が2014年に日米中韓の高校生に対して行った『高校生の生活と意識に関する調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-』です。

以下のとおり、日本人の高校生は自分をポジティブに評価する割合が少なく、

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自分をネガティブに評価する割合が高いことが確認できます。

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自己肯定感が低いとうつになりやすい

自己肯定感が低いと色々弊害があります。うつになりやすいという因果関係が最近分かってきているようです。

この2008年の論文では、15歳と18歳の頃に自己肯定感が低いと21歳の頃にうつのリスクが高まるということを確認しています。(一方で、逆はそうでもない。)

Low self-esteem prospectively predicts depression in adolescence and young adulthood.

こちらの2013年の論文では、色んな調査を横断的に分析して、同じくこの因果関係を確認しています。

Does low self-esteem predict depression and anxiety? A meta-analysis of longitudinal studies. - PubMed - NCBI

 

親・教師との関係の良さと自己肯定感の関係

では、子どもの自己肯定感をどうしたら低下させないようにできるのでしょうか。

大阪子ども調査』では、

本調査は、貧困家庭の子どもは自己肯定感(8)が全般的に低く、「頑張ればむくわれる」「自分の将来が楽しみだ」という質問に対する否定的評価の割合が多く、また、将来の夢(1)もない割合が高く、「希望格差」(山田昌弘)あるいは「意欲格差」が存在していることを示しています。

大阪の貧困家庭の子どもの自己肯定感が低いことが確認されています。

この調査を行った研究者の『子どもの自己肯定感の低下を防ぐ要因はなにか』(阿部 彩、首都大学東京)では、教師と関係が良いほど、親との関係が良いほど貧困家庭でも自己肯定感が下がりにくいことを確認しています。

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確かに教師との関係がよいほど自己肯定感の回答に差がないし、

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親子関係でもそのようです。

他には、学力が高いと自己肯定感が高いという因果関係は確認されています。ただ、日本の子どもは絶対的な学力自体は他の国の子どもと比べて高い傾向にあります。恐らく、学力を比較されることが多く、ある程度できても親・教師から認められにくいというのが、日本の子どもの自己肯定感の低さの一因ではないでいしょうか。

 

大人になってからも自己肯定感が低い人はいる

日本人の大人の自己肯定感の低さの傾向が分かる調査は確認できませんでしたが、個人の観測範囲では自己肯定感が低い人はいます。

自分のブログの読者で、モヤモヤ相談を送ってこられる方には、機能不全家族出身者が非常に多いんですよね。大体、5割です。そして、それらの人たちの多くが自己肯定感が低い傾向があるように見受けられます。

自己肯定感が低いと、自分自身のことをダメだと思う以外に、他人に対しても結構まずい対処をしちゃいがちです。何でも自分が悪いと考えたり、良し悪しを決めつけちゃったり、他人との距離感が上手くつかめなかったり。それで人間関係トラブルになるというか、モヤモヤすることがある。

私自身はカウンセラーでも精神科医でもない、ただモヤモヤを美味しくいただいてほっこりしている一般人ですから、自己肯定感の低さについて、その対処を指導したり、治療したりする立場ではありません。ただ、読者の相談を聞いているうちに、自己肯定感をどうやったら持てるかというのには興味が湧いてきました。特に、大人になってからですね。

 

自己肯定感を持つには他人をありのままに受け入れること

そんな中で、以前、アンガーマネジメント本をレビューした水島広子さんの、

自己肯定感をどう持つかという本を読みました。 自己肯定感の低い大人向けに書かれています。

自己肯定感、持っていますか? あなたの世界をガラリと変える、たったひとつの方法 大和出版

自己肯定感、持っていますか? あなたの世界をガラリと変える、たったひとつの方法 大和出版

  • 作者: 水島広子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/11/06
  • メディア: Kindle版
 

※Kindle版のほうが400円強安い。最近、こういう価格設定が多いと思うのは私だけでしょうか

読んだのは結構前で、このブログの中でもタイトルだけは何度か紹介してみましたが、冒頭の記事が話題になっていたことだし、いい機会なので簡単に内容を紹介しておきます。基本的な発想としては、自己肯定感を持ちたければ、他人をありのままに受け止めようというものです。

自己肯定感が低い人は自分に価値がないと考えるわけですが、こう考えていると、相手の行動について自分のせいだと思いがちです。「あの人が怒ったのは私が悪かったせいだ」みたいな。他には、繰り返し自己否定をしてきたことから異なる意見が受け入れられず、他人の意見を自分への攻撃だと受け止めがちだったり。善し悪しの決めつけや評価をしちゃう。

それでこの自己肯定感の低さへの対処としては、他人を評価することを手放し、「相手にも事情がある」と相手が存在していることをそのまま受け入れてみる。そうすると、相手が怒ったことは相手の領域の問題だと理解でき、他人の意見も自分への攻撃だと感じられなくなってくる。自分が必ずしも悪いわけではないと感じられる。ひいては「相手だけでなく自分の現状にも事情がある」と自分の存在をありのままに受け入れられるようになり、自己肯定感を獲得できると、そういうプロセスです。かなり、ざっくり書いていますけどね。 

自分に価値があると確認しようとするより、この他人をありのままに受け入れるというプロセスを取るほうが効果的だと書かれています。

本の中では、近しい人とどうやって「自己肯定感が高まる」関係を構築するかについても一章使って触れられています。幼少期の人間関係で下がった自己肯定感を、大人になってからの人間関係でもう一度復活させる(安定させる)みたいな試みでしょうか。

自己肯定感の低い人は適度な距離感の人間関係を構築し辛いっぽいので、順序としては内心である程度自己肯定感を戻してから、その上で良好な人間関係を作ることに集中するほうが失敗は少ないかなと思いました。もしくは、早めにプロに頼む。

 

締め

自己肯定感について色々調べているうちに、時々見かけるあの構図が実はこれで解釈できる部分があるんじゃないかと思うようになりました。弱きものが弱きものを叩くという構図です。被差別者が差別をする、被虐待児が親になって虐待をする。生存者バイアス以外に、自己肯定感の低さが他者への攻撃の誘因になっていないか。

 

私自身は子どもの頃一時期いじめられたことがあり(それで自己肯定感はかなり下がった)、いじめによって受けたダメージを回復するプロセスの中で、加害者の事情を理解するというのはやっています。結構極端なケースですけど、自分をいじめた加害児童の中心人物は親がネグレクト気味でした。「いじめられた自分が悪かった=自分には価値がない」という呪縛は今はなくなっています。このいじめられた自分に価値はないという発想って人生のあちこちについてくるやっかいなやつなので、逃れられるなら逃れたほうが気楽です。

 

水島広子さんの本自体は自己肯定感が低い人向けに作られているのですが、自己肯定感が低い人がどういう思考回路を持っているかという、自己肯定感の低い人との付き合い方を理解するためにも有用だと思います。「どうせ私なんて」を口癖みたいに言う人との付き合い方です。基本的に、ありのままに受け止める、相手を変えようとしない、何かを語るなら「私はこう思うけど」と領域をはっきりさせるみたいな感じですかね。

この辺は同じ水島広子さんのアンガーマネジメントの本と大きな違いは感じられません。 

「対人関係療法」の精神科医が教える 「怒り」がスーッと消える本 (大和出版)

「対人関係療法」の精神科医が教える 「怒り」がスーッと消える本 (大和出版)

  • 作者: 水島広子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Kindle版
 

水島広子さんは対人関係療法の根っこの部分を視点を変えて紹介していると思われるので、せっかくなので対人関係療法自体について専門書を読んでみることにします。理論的背景を確認したい。

最後にですが、視野と世界が狭かった子どもの頃もそれはそれで楽しかったですけど、年を取って色んな人に色んな事情があることを知る機会がある今も人生は楽しいです。誰にも話せないモヤモヤがある人は気軽にetsuko.topisyu@gmail.comまでメールください。

自己肯定感が低いことの診断とか改善については専門家ではないからできませんし、やりたいとも思いませんけど、話を聞いて「それってほっこりしますね!美味しくいただきました!!」ぐらいのコメントはします。

ありのままで思い出したんですけど、『アナと雪の女王』は自己肯定感の獲得の物語とも考えられますね。自己肯定感については他の国でも注目されているし、意識して作られたのかもしれません。

 

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