斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

"内部留保 -すべて現預金でストックされているという勘違い"への勘違い

プレジデントのとある記事へのはてなブックマークコメントで、勘違いやミスリーディングや過剰反応と思われるものがありました。この記事では、それらへのtopisyuのコメントを書いているため、元記事とブクマコメントを読まれた上で、この先を読まれることをお勧めします。

元記事:内部留保 -すべて現預金でストックされているという勘違い:PRESIDENT Online - プレジデント

はてなブックマークコメント:はてなブックマーク - 内部留保 -すべて現預金でストックされているという勘違い:PRESIDENT Online - プレジデント

http://www.flickr.com/photos/76657755@N04/7027601297

photo by Tax Credits

  

勘違い、ミスリーディング、過剰反応

はてなスターが多い順にブクマコメントを引用の上、何がどう、勘違い、ミスリーディング、過剰反応かを一つずつコメントしていきます。

 

id:equilibrista

従業員の賃金を株主から奪えって叫びは、ちっともおかしくない

はてなブックマーク - equilibrista のブックマーク

過剰反応です。"従業員の賃金を株主から奪えという叫びがおかしい"とは本文中どこにも書かれていません。従業員に関係ある部分は、"内部留保を取り崩せば従業員の給料を増やせる、などと主張する人もいるが、そう簡単な話ではない。"ぐらいです。

 

id:yasagure_Polaris

だから何度同じ議論を。確かに内部留保は勘定項目じゃない。だから実態の話をせえや。この20年で有形固定資産は減少し続け、逆に投資有価証券は増え続けとる。実際に大企業は流動資産を増やしまくっとるやんけ。

はてなブックマーク - yasagure_Polaris のブックマーク

記事中に書かれている通り、内部留保は、利益剰余金などの勘定科目の総称です。言葉としては勘定科目ではありませんが、通常は内部留保と言われれば、「ああ、利益剰余金とかBSの右下のことね」と勘定科目(群)が頭に浮かびます。

また、本文にある、"もし企業の姿勢を批判するのなら、積み上がった現預金の額と使い方を議論すべきだ"←この部分の、現預金は通常流動資産に含まれます。"実際に大企業は流動資産を増やしまくっとるやんけ。"と問題視しているポイントは同じです。なぜ"何度同じ議論を"と元記事と趣旨が違うようなコメントをされるのでしょうか。

 

id:snobbishinsomniac

こういう0か100かという議論は飽きた。誰もが内部留保を全部出せと入っている訳でなし。もともとは株主配当が出ているくらい利益上げているんだから給与も上げられるでしょという文脈でのひとつの例示なんだが。

はてなブックマーク - snobbishinsomniacのブックマーク - 2014年1月26日

元記事は内部留保で企業を批判すると誤解があるというものです。内部留保を全部出せという意見があるとして、それを批判しているようには読めません。また、"株主配当が出ているくらい利益上げているんだから給与も上げられる"というのはそれこそ0か100の極論です。配当を出すかは配当政策次第です。利益がなくとも配当できますし、配当が出ているのだから利益が出ているとするのは誤解が生じます。

 

id:bhikkhu

内部留保=現預金じゃないというのはよく言われるけど、労働者等と企業との利益配分のうち企業の取り分の積み重ねではある。そういう観点から言うと労働分配率見た方が適切なのかもしれんけど。

はてなブックマーク - 隠者の栞 - 2014年1月26日

違います。内部留保は、企業の取り分ではなく、原則株主の取り分です。

 

id:fromdusktildawn

先が読めない時ほど会社は流動資産を増やす。なぜなら会社はキャッシュフロー=血液が枯渇したら死ぬから。この20年で流動資産を増やしたからこそ百年に一度の大不況やリーマンショックを生き延びられたのでは。

はてなブックマーク - 分裂勘違い君劇場管理人のブクマ

流動資産が増えればキャッシュフローが増えるとしています。流動資産には売掛金や棚卸資産が含まれます。仮に売掛金や棚卸資産が増えればキャッシュフローは減少します。もし書くとすれば、"この20年で流動資産を増やしたからこそ"は、"この20年で(余剰の)現預金を増やしたからこそ"です。

 

id:zakinco

会社的には現預金を持たずに他の種類の資産を持っていれば内部留保がたくさんあっても現金は少ないので、労働者に分配する金はないと言い張れるわけですね分かります。労働者への分配も企業にとっては立派な投資だよ

はてなブックマーク - ザキンコのブックマーク(本文の引用が多いです) - 2014年1月26日

前段で、"内部留保がたくさんあっても現金は少ないので"と書かれていますが、本文では、"もし企業の姿勢を批判するのなら、積み上がった現預金の額と使い方を議論すべきだ。"という現金の多さを問題視しています。仮のケースだとしても、そういう事例を出すのはミスリーディングです。

 

元記事を理解された上で、ミスリーディングなく、批判されていると思われる方もいらっしゃたので、そちらも合わせて紹介しておきます。

id:dadapon

会計的には当たり前の話。ただ、内部留保を云々する人の目的は「労働分配率をもっと上げろ」てことで、その目的自体は間違いじゃない。内部留保を持ち出すのが筋が悪いだけで。

はてなブックマーク - dadapon のブックマーク

id:el-bronco

その利益剰余金をたっぷり出す前にもっと配分しましょうっていう話でしょう。

はてなブックマーク - el-bronco のブックマーク

 

内部留保の多さで企業が労働分配率が低いと批判することの問題点

上記コメントをしたのは、「企業の労働分配率が低いのではないか」という議論を否定する意図からではありません。内部留保の使いやすさも理解しています。ただ、内部留保の批判での使いやすさに依存して、筋悪な議論がされているのではないかと考えています。はてなブックマークコメントはその筋悪さの一端としてスターの多い順に紹介しました。

 

内部留保を使って議論するのであれば、最低限元記事は理解した上で、以下の点に注意した方がいいと思います。

 

例えば、単純に内部留保の締める割合が大きい企業を批判しようとすると、歴史の長い企業ほどやり玉にあがりやすくなります。内部留保は、どのような性質でつみあがったか、個別にチェックする必要があります。

また、内部留保が多いからと言って、従業員に還元されていないとはいえません。非常に利益率の良いビジネスモデルがあったとして、それは従業員によって実現されたかどうかはその企業ごとによって判断する必要があります。

更に、内部留保が少ない企業=労働分配率が高いということでもありません。株主への配当が多ければ、利益が出ていなければ、内部留保は少なくなります。こういう企業は、単に配当性向が高い、売上が少ないだけかもしれません。内部留保批判への対抗策として、企業が配当をするようになってしまっては、労働者への分配率は増えません。

そして、内部留保が多いとして労働者に還元するべきだと企業を批判したとしても、それは経営者には届きにくいです。内部留保は、株主に還元するためのものですから、これをどうにかしろと言われても、企業としてはどうしようもできません。(株主に対する背反行為になりうる。) 政策的に、内部留保を従業員に還元しろという規制も設けることはまずできません。極端なことを言えば、市場から株主がいなくなります。

 

締め 

では、どう批判するかと言えば、内部留保は傾向を知るために踏まえつつも、現金性資産(現預金だけではなく、投資有価証券含む)が過剰なのであれば投資先がないのではないかと推定し、株主からの評価を見合いながら、十分な利益を出せる体質ならば、従業員に還元することも検討するべきではないかという議論を個社別にするということでしょうか。ステークホルダーへの利益分配は企業運営における永遠の難問です。ざっくり良し悪しを決められるものではない。

 

間違った知識を前提に批判していれば、批判は相手に届きません。何度も同じ話を繰り返し、0か100かの極端な議論を展開することになるのではないでしょうか。

 

予告

PL、BS、CFを整理して理解するのは、数年来議論になっているAmazonの課税問題とも若干関係します。Amazonについては今度記事を書く予定なので、その前段階として、こういう記事を何本か書くかもしれません。