斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

子供の犯罪行為に対する親の責任

未成年が逮捕されると「親は何をやっていたんだ!?」という話が出ます。

 

先日も、リモコンのヘリみたいなものを三社祭で飛ばそうとした15歳の少年が逮捕され、同じような議論がされているのを見かけました。

“ドローン飛ばす”と動画を配信 少年逮捕 NHKニュース

今月行われた東京・浅草の「三社祭」で、無人機の「ドローン」を飛ばすことをほのめかす内容をインターネット上で配信し主催者の業務を妨害したとして、横浜市の15歳の少年が警視庁に逮捕されました。少年は長野市の善光寺の境内でドローンを飛ばして落下させたほか、国会議事堂の近くなどでも飛ばそうとしたとして、警視庁から再三、注意を受けていました。少年は容疑を否認しているということです。

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押収された少年の所持品を見ると普通の15歳の子供が自力で持てるようなものではありません。これだけ見れば、お金持ちの子供が遊びでやったように見えますが、これらの所持品は(一部もしくは全部)ネットで調達したものだそうです。

犯罪行為になりうることについて資金提供をしたり、アドバイスをしたりすることの是非はひとまず置いておいて、こういう背景があったとしても、親の責任を問われるのは、一親としては厳しいと感じます。

 

子供の行為に対する親の責任というと民法第714条の監督義務者の責任が思い浮かぶと思います。

(責任無能力者の監督義務者等の責任)

第714条

1. 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

常識的にもそうですし、民法でも規定されている通り、確かに責任能力が無い子供が加えた損害については一義的に親が負うものでしょう。なお、子供に責任能力がいつ生まれるかについては、判例からは12歳頃からと推測されます。

この責任を理解する知能が備わるのは,判例では,12歳程度と言われています。

よく取り上げられる判例には,
①自転車で出前をしていた11歳11月の子供に責任を認めた事例
②エアガンで友達を失明させた12歳2月の子供に責任を認めなかった事例
があります。

この2つの事例あたりが限界事例で,12歳あたりで基準が分かれているといわれる所以です。

群馬県太田市の弁護士小川昌幸のブログ 「未成年者の不法行為」

自らの行為について責任を取るという発想を実際にいつから自覚できるかは子供によっても違うでしょうけどね。成人していても自覚できていない人はいます。

 

子供に責任能力がないけれど必ず親が賠償をしなければならないかと言えば、民法第714条の但し書きにもある通り、監督義務者である親が監督義務を怠わなかったときや、監督義務を怠らなくても損害が生じたときには、例外となるとあります。

親の監督義務については善管注意義務とされますが、具体的には、サッカーボール訴訟(2004年に小6男子が学校でサッカーをしていたらそのボールが飛び出し、オードバイに乗っていた85歳の老人が転倒し、後に死亡した件について老人の親族が民事訴訟を起こした件)について、今年2015年4月の最高裁の判決文が参考になります。

【PDF】最高裁(第1小法廷)平成27年4月9日判決

責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。

Cの父母である上告人らは,危険な行為に及ばないよう日頃からCに通常のしつけをしていたというのであり,Cの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。そうすると,本件の事実関係に照らせば,上告人らは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。

ここでは直接的な監視下にないときは危険な行為にならないよう日頃から通常のしつけをしていたり、予見可能性がなければ、監督義務を怠らなかったというべきとあります。

これでも具体的な判決なようですが、これでさえ、親としては色々悩むわけです。どんな時には直接的な監視下にいる扱いになるのか、どこまでが通常のしつけなのか、どこまでが予見可能性があると言えるのか。

 

今回のケースで言えば、自宅でパソコン等を使ってネットで配信行為をしていたのは、自宅の中にいるので直接的な監視下にいるとも言えそうです。しつけはしていても、非行行為を繰り返していたとしたら予見可能性はありそう。

親としては、PCを廃棄する、お小遣いを制限する、注意をするなどはしていたようですし、昨年から何度も警視庁から警告を受けていたとなれば警察にも相談していたと思われます。監督義務は怠っていない可能性が高い。(PCを捨てるのはこれはこれで色々な意見があるでしょうが、例えば、ネットでわいせつな動画を配信していたり、ネット中毒であるような子供に、戸塚ヨットスクール入りさせるなど環境を変える以外で、できることは限界があります。)

 

非行少年率は最近では14歳~16歳がピークです。

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※図は平成26年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節/2より

これは検挙されたケースに限定されたものであるもの、子供がどのような年齢で非行をするかの大体の傾向は探れると思います。検挙率自体は昔より低いですね。

時期的には第二次性徴が始まるとともに増えだし、第二次性徴が終わったところでピークを迎えるというところでしょうか。いわゆる思春期の時期です。

この時期の子供は親の言うことはなかなか聞きませんし、本人としても鬱屈した何かをどこかで発散したいという気持ちがあったりするので、非行行為を行うタイミングとしては違和感は無いのではないでしょうか。15の夜。

 

ここまで書いてきて何が言いたいかといえば、子供が犯罪を起こしたのだからその責任は全て親にあるという結論をいつでも適応させるのは少々乱暴ではないかということです。

一親として、無資力であり、判断能力の乏しい子供についてできる限りの教育をする責任はあると思いますが、一方で子供の自主性というのも尊重したいと考えています。子供からPCやスマホを奪えばやり過ぎという声が出るように、少し厳しくしつけたらしつけたで、それはそれで非難される。

それぞれの親への非難については、同じ人からではなく、別々の人から言われているとしても、総じれば世間は世間であり、親視点では、何をしても自分たちに対する非難が行われているようにも見えます。バランスをよくしたくても、自分自身に人間として未熟な部分があることもありますし、常に精神を安定させらるかと言えばそうでもない。

誰にも責任がない、不幸としか言えない状況もありますし、親が最善を尽くしたケースもあるでしょうし、その逆もあるでしょう。受け手が様々な事情を把握できるよう、個別事情についての理解が深まる形で報道はされて欲しいと願います。