産経新聞のこの記事を読んで、
「取材なく無断でコメント掲載された」琉球大名誉教授が朝日新聞を提訴 東京地裁(1/2ページ) - 産経ニュース
比嘉氏は同社記者から取材を受けていなかったが、記事では微生物の効果について「開発者の比嘉照夫・琉球大名誉教授は『重力波と想定される波動によるもの』と主張する」などと記載。この引用は、比嘉氏が記事の掲載日から約5年前の19年10月1日に投稿したブログから無断で引用されたものだった。さらに一部を切り取るなど改変されていたという。
少し驚きました。
というのも、産経新聞がこの名誉教授の言葉をそのまま借りて、朝日新聞が記事での引用をしたことを"無断"と批判しているように見える記事だからです。そもそも、引用は要件を満たす限り著者の許可は不要です。無断で行われるのが引用という行為です。引用の要件を満たさないなら転載です。
「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のことをいいますが、法律に定められた要件を満たしていれば著作権者の了解なしに引用することができます(第32条)。
上の引用元の文章は文化庁によるものです。
ですから、
比嘉氏が記事の掲載日から約5年前の19年10月1日に投稿したブログから無断で引用されたものだった。さらに一部を切り取るなど改変されていたという。
は、
比嘉氏が記事の掲載日から約5年前の19年10月1日に投稿したブログから無断で転載されたものだった。さらに一部を切り取るなど改変されていたという。
とするなら分かりますけど、"無断で引用"なんて言葉を新聞社の方が掲載するのに驚きました。誰も気にならなかったんでしょうか。
ちなみに、朝日新聞の元記事はこちらで、
朝日新聞デジタル:EM菌「効果疑問」検証せぬまま授業-マイタウン青森(リンク切れのために引用元はTumblr)
EM菌の効果について、開発者の比嘉照夫・琉球大名誉教授は「重力波と想定される波動によるもの」と主張する。製造元で普及を進めるEM研究機構(沖縄県)は「EMに含まれる微生物がリーダー的な存在となり、現場の微生物を連係させる」と環境浄化メカニズムを説明する。また、機構は「放射能対策に効果がある」とも言う。
だが、疑似科学問題に詳しい科学者らは、EM菌の効果や理論を批判する。菊池誠・大阪大教授は「原理は物理的にナンセンスの一言。何でも都合の良い方向に働くとの万能性をうたっていること自体が、非科学的だ」と指摘する。(太字は筆者)
さらに、元になったこの名誉教授のブログでの該当箇所はこちらです。
EM情報室 WEBマガジン エコ・ピュア 連載 新・夢に生きる ⑤ 比嘉照夫 名桜大学教授
昨年の12月、江本勝さんが設立した(株)IHMの20周年記念セミナーに船井幸雄さんと私がゲストスピーカーとして招待され、波動についていろいろとお話しする機会がありました。私はEMの本質的な効果は、関英男先生が確認した重力波と想定される縦波の波動によるものと考えています。
(太字は筆者)
比較してみて分かる通り、"関英男先生が確認した"という言葉が外れているのが改変だということでしょうね。朝日新聞は引用であることは分かるようにしているものの、このブログから引用したという出典元の記載はしていませんから、引用の要件を完璧に満たしてはいないとは思います。(新聞は文字数に厳しい制限があって、ここらへん緩いんですよね。)
ただ、これをもって、
この引用は、比嘉氏が記事の掲載日から約5年前の19年10月1日に投稿したブログから無断で引用されたものだった。さらに一部を切り取るなど改変されていたという。
と、この名誉教授の言葉をそのまま信じてこのような記事にするのは、物を書くことをプロとしている人間の仕事としてはどうでしょうか。
産経新聞はこの名誉教授(の秘書)に取材してこの記事を書いたようですけど、取材先の発言を鵜呑みにしてそのまま載せるのが新聞だとしたら、新聞社としての付加価値はあまりに少ないなと思います。(そういう新聞社が多いのは知っているし、一覧性がある形で報道する意味がないわけではないでしょうけどね。)
ということで、最後に今朝も紹介した本を紹介して終わりにします。
- 作者: 菊池誠,松永和紀,伊勢田哲治,平川秀幸,片瀬久美子,飯田泰之,SYNODOS
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/09/16
- メディア: 新書
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EM菌に関する本は賞賛しているもの以外見つけられなかったんですが、それ以外の本があるようでしたら教えて頂けると嬉しいです。