こんな退職記事を見かけました。
株式会社 Impress Watch・窓の杜編集部を退職しました。 - だるろぐ
就労時の年収が400万円ぐらいであったことや、社内の新陳代謝がよくないことなどが書かれており、社内事情が垣間見れるようになっています。
ということで、この退職記事から察することができることを、企業が公表している情報を使って裏付けを取ってみようというのが、本記事の目的となります。
しらないことが おいでおいでしてる
出かけよう くちぶえふいてさ
びっくりしようよ あららのら! しらべてなっとく うん そうか!
NHK教育テレビ『たんけんぼくのまち』から
窓の杜事業を行っているImpress WatchはインプレスホールディングスのITセグメント
まずは前提情報から。
Windows向けのフリーソフトの紹介で有名な窓の杜というメディアはImpress Watchという会社で運営されています。この退職記事を書かれた方の所属会社がここ。
それで、このImpress Watchは、インプレスホールディングスの子会社です。インプレスホールディングスは上場していまして、Impress WatchはセグメントとしてはITに分類されているようです。Impress Watch単体の情報、窓の杜事業部の情報は確認できませんが、このセグメントの情報を入手することでおおよそのことが想像できそう。
※インプレスホールディングスの有価証券報告書から
"部署の人数を増やしてくれるほど、ウチは儲けてない"はたぶん本当
では、開示情報を見ながら、元記事をチェックしていきましょう。
もういなくていいと思った
新しい人を入れるためには、誰かが外に出なきゃいけない。部署の人数を増やしてくれるほど、ウチは儲けてないし、ウエのひとも寛容じゃないのはよく知っている。
じゃぁ、誰が出るの? 僕でしょ! ライティングだけだったら会社来なくてもできるし。
どうやら、窓の杜事業は儲かっていないようです。採用も積極的ではない様子。
早速、有価証券報告書に開示されているITセグメントの従業員数と売上高と営業利益をチェックしてみます。
※年は3月期と読みかえて下さい。
ITセグメントに関係する従業員数はこの方が入社された2008年以降減少傾向です。インプレスホールディングスの他のグループ会社に移っていたりするからかもしれませんが、積極採用している様子は窺えません。
続けて、
だいたい、いずれ窓の杜が社会的に必要とされなくなって事業を縮小していかなきゃいけないとき、「誰が先に辞めるの?」っていう話になると思うのだけど、その場には居合せたくない(妄想しすぎだろうか?)。会社はどうでもいいけど、部署には割りと愛着あるしね。もしかしたら生き延びる道を探り当てて長生きするかもしれないけれど、どうだろう、もしかしたらそのとき自分は邪魔になるかもしれないって思う。この予感を深く掘り下げてみてもいいけど、これ以上エントリが長ったらしくなるのはウザいし、ここに書くべきことでもない気がする。
窓の杜事業の存続可能性について言及されています。
この裏付けとしては、ITセグメントの売上の減少が考えられます。ご覧になって分かる通り、2008年から毎年下がっています。この期間では2008年がピークです。この方が入社した時が(この期間で)一番売上は良かった。
営業利益も赤字です。最近は開示されていませんが、一人あたり売上高は変わっていませんから、セグメントとしての赤字体質は続いているかもしれません。
この状態を入社してから経験し続けていたら、"ウチは儲けてない""いずれ窓の杜が社会的に必要とされなくなって事業を縮小していかなきゃいけない"という考えが出るのも頷けます。
インプレスの買収・売却の歴史
この方が窓の杜事業の存続について疑問を呈されている背景には、業績以外にも理由があると思われます。
以下は、有価証券報告書の沿革から事業や会社の買収・売却に限定して抜粋したものです。
平成17年3月 医学・医療分野の専門出版を行う株式会社メディカルトリビューンの株式を取得し子会社化。
平成18年11月 山岳・自然分野の専門出版を行う株式会社山と溪谷社の株式を取得し子会社化。
平成20年10月 E2パブリッシング株式会社の株式を取得し子会社化。
平成21年12月 株式会社編集工学研究所の株式の一部を譲渡。
平成22年1月 E2パブリッシング株式会社の全株式を譲渡。
平成22年8月 株式会社メディカルトリビューンが、全事業を譲渡。当社は、事業譲渡先企業である株式会社メディカルトリビューンの株式を新たに取得し、同社は当社の関連会社となる。
平成23年5月 ㈱クリエイターズギルドの株式を一部譲渡し議決権の所有割合が減少したことにより、連結の範囲から除外。
平成23年10月 ㈱IMAの全株式を譲渡。
平成25年2月 ㈱メディカルトリビューンの株式の一部を譲渡。
特に目立つものだと、9年前に買収したメディカルトリビューンは、別会社にした上で株式を徐々に譲渡していき、EE Times Japanを発行するE2パブリッシングは買収した2年後に売却しているケースでしょうか。それ以外にも売ったり、買ったりをよくやっています。
もちろんこれ以外にも社内の組織再編には大変熱心な会社で、事業が子会社化されたり、子会社が合併されたりしています。
合わせて全体の売上も減っていっていますので、こういう会社のグループ企業にいれば、自分のところで儲かっていない事業があれば、その行く末自体に疑問を感じるのは分からない話ではないかもしれません。
※売上はピークの2/3以下に
就業年数数年の34歳での年収400万円は妥当か?
続いて、お給料の話。
おちんぎん
最終で年収400万ぐらい。正社員じゃなかったときはボーナスなかったからほんと寒かった。
給与明細が公表され年収400万円ぐらいであることが分かります。これは高いのか安いのか。
残念ながら、現在はインプレスホールディングスの年収しか公開されていませんが、一番直近の2004年時点では平均年齢33.8歳、平均勤続年数5.5年、平均年間給与558万円という水準が確認できます。
平均勤続年数は会社としての勤続年数で、組織変更を何度もしていることからあまり意味が無いかもしれませんが、新卒で10年経験して558万円ぐらいと考えればいいでしょうか。そうすると、正社員としての勤続年数が数年のこの方が400万円ぐらいの年収というのはこんなものかもしれません。
ちなみに、ホールディングスの年収は以下の様な感じです。
これから読み取れる情報としては、ホールディングスも人員数を絞っていること、年の昇給率は3%ぐらいということ。
これは、
けれど、今の収入で東京で頑張るのはぶっちゃけキツい。かといってこれから収入が劇的に上がることは見込めないので、地方に出て生活費(支出)を削ることにした。
"収入が劇的に上がることはない"という部分と繋がるかもしれません。ホールディングスの昇給率がこれぐらいなら、あまり成長していない子会社の従業員の昇給率はそれほど高いものを望みにくい。
今住んでいらっしゃる地域では家賃相場が1Kで6万円ぐらいで、都内近郊としては比較的良心的ではないかと思われます。それでも、収入が増えなければ、生活費を下げるという選択肢はありそう。
締め
上に書いたことは当たっているかは分かりません。ただ、漏れ伝わる生の情報と、公開情報を比較すると、数字が生き生きして見えてきませんか?
退職記事を、その企業(及び所属している企業)がどのような状況にあるのかを思い馳せる手がかりとする楽しみを皆さんにも感じていただきたく、自分が個人的にしているプロセスを紹介してみました。
従業員の退職記事をよく見かける、株式会社はてなも、早く上場してくれると嬉しいですね!