今年の3月の名古屋入管でのウィシュマさん死亡事件に関する最終報告書(『名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告』)を読んでいます。
背景
報告書の中身に入る前に、この件が数字の上ではどう考えられるかを紹介します。n=1ではない話ってことです。
日本では、国外退去を命じられて、出入国在留管理庁の収容施設に収容される外国人が増加し、また、その収容期間が長期化傾向にあります。その収容施設は、環境の悪い刑務所みたいな場所です。
収容ってなんですか?弁護士に聞く収容問題 | 認定NPO法人 難民支援協会
詳しくは、国立国会図書館『退去強制手続における外国人の収容』を見てもらうといいんですが、2015年では収容期間6ヶ月以上の人が3割程度だったのが、2019年6月には5割になっています(下表)。
収容中に死亡した収容者の国籍は、今回のスリランカ人のウィシュマさん以外に、ガーナ、インド、中国、ブラジル、韓国、フィリピン、ミャンマー、イラン、カメルーン、ベトナム、ナイジェリア、インドネシアと多岐にわたります。
そして、国連からは何度も収容対応・収容期間・収容期間中の処遇について指摘を受けています。法改正の議論もありますが、改悪する形で法案が提出されたため改正案は今年6月に廃案になっています。
「入管法改正案は改悪、廃案を」 学者ら505人が声明:朝日新聞デジタル
ということで、問題がある状態が続いているのが日本の収容施設です。なお、本当の背景には、日本の難民認定率の低さがあります。少し古いですが、5年前に私が難民支援協会の人とやり取りした内容を公開していますので、興味がある人は読んでみてください。
なぜ今、難民問題なの? 難民支援協会さんに聞いてみた ~6/20から表参道で写真展~ - 斗比主閲子の姑日記
入管職員が自分で調べて、自分で書いた調査報告書
ここからが本題です。
まず、この報告書は責任者が出入国管理部長で、入管職員が調査チームで、職員が調べてまとめたものです。
一応、外部の意見は取り入れているというものの、外部の有識者の一覧は別紙となっていて、その別紙は公開されていません。
※画像は名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告について | 出入国在留管理庁より
ということで、当事者が自分で調査して、自分で再発防止策等を書いたものになります。
調査報告書の中身からの抜粋
自分で調べた内容ということもあって、当たり前ですがお手盛りの可能性もあり、事実関係以外はあまり参考にならないと思いながら読んでいました。
で、以下は、入管でのウィシュマさんへの対応が不適切であったことが明確に分かる箇所です。気分が悪くなるかもしれないので、注意してください。
A氏がウィシュマさんです。
まず、ウィシュマさんが死亡する5日前の対応。
鼻から牛乳というのは、嘉門タツオさんのヒット曲からですね。まともに座っていられず、嚥下もできないウィシュマさんを見て看守が言った発言。ユーモアに富んでいます。
次に、ウィシュマさんが死亡する前日の対応。
もうトイレの移動も厳しいウィシュマさんに対し、希望する食事を聞いたときに「アロ・・・」という言葉に対し、「アロンアルファ?」と聞き返したもの。アロンアルファはこの入管職員にとっては食べ物なんでしょうね。
この情報だけでは分かりませんが、アローはジャガイモという意味なので、ジャガイモのカレーとかだったのかな。
最後は、ウィシュマさんが死亡する当日。脈が停止するのを確認する5時間前。
ここまでですでに衰弱が見られて、言葉も正確に発せないウィシュマさんに対して、薬が効いているからそういう反応なんだろうと入管職員が言っています。家族であっても言わないだろう、非常にフレンドリーでフランクな話し方です。
以上、明確に不適切だと思われる箇所を抜粋しました。入管職員が自分で調査した資料で、自分たちに不利な情報が書かれているのは不思議ですよね。
荻上チキさんのSeesionで、ウィシュマさん遺族の担当弁護士さんが見解を述べられていて、ビデオに残っているから言い逃れができないからだろうということでした。
締め
ということで、今回は軽めにウィシュマさん死亡事件の最終報告書の中身を一部紹介しました。
加害者サイドが自分で調べて、しかも、外部の有識者が誰かも公開せず、事実関係を取りまとめて、再発防止策を書いたものですから、普通に考えれば参考になりません。
それでも明確に不適切な対応は確認できるので、これが常態化しているとすれば、収容されている人はもちろんのこと、働いている入管職員も強烈なストレスに晒されているんじゃないかと推測されます。
普通の感覚だと目の前の死ぬかもしれない人に対して、こういう対処はできません。脳みそで何かの感覚をシャットダウンしているからできることで、入管職員が仕事以外の日常生活をまともに営めているかが心配です。
いずれにせよ、第三者に改めて調査をしてもらいたいですね。その調査報告書が出てくるようなことがあれば、詳細をブログで紹介します。