斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

子宮頸がんワクチンの報道でやらかしたのに、新型コロナワクチンで「医師1726人の本音「いますぐ接種」3割」って朝日新聞出版に反省はないの?

以下は今週のAERAの見出しです。

右端に新型コロナウイルスのワクチン接種についての医師への独自アンケートの結果が、センセーショナルに取り上げられています。

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※今週のAERAの見出し。電車の中吊り広告用ですが、もはやWeb用か(出所

これが次のように批判されています。

※松永和紀さんはデイリー新潮や毎日新聞の報道も念頭にしている

批判されている見出しの記事を担当されたAERAの編集者さんは、 

批判は記事の切り取りであって、

見出しだけしか見ない人のことは想像していなかったとしています。

通常、広告としての見出しというのはそれで客引きをするもので、そのうちの極僅かが実際に媒体の中身を読むわけですから、出版業界に所属していれば、その広告の見出ししか目にしない人がいるなんてことは分かりそうな気がするんですが、分からなかったんですね。不思議。

それで、肝心の記事はWebで読めます。

医師1726人の本音 コロナ「夏までに収束」1割未満、ワクチン「接種」「種類により接種」は6割 (1/3) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

まず、このWebの記事はタイトルが変わっていて、もとは、このように、医師でさえ3割しかワクチンを摂取しないという不安を煽るものです。

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※出所:医師1726人の本音 コロナ「夏までに収束」1割未満、ワクチン「接種」は3割 

もとのタイトルであっても不安を煽る意図はないとAERAは言うかも知れませんが、ご覧のように、アンケートの自由解答欄へのリンクの文章は『【緊急アンケート】ワクチン接種を「する」と答えた医師はわずか3割だった!』とあるので、不安を煽る意図がないということはまずないでしょう。

では、記事の内容はというと、

新型コロナウイルスのワクチンについては、政府が2月下旬にも接種を開始できるよう準備を進めている。患者と接する可能性の高い医療従事者は優先的に接種が行われる見通しだが、医師たちに自身の接種の意向を聞いたところ、「接種する」が31.4%、「ワクチンの種類によっては接種する」が27.3%、「接種しない」と答えた人は11.8%いた。

 回答理由からは、「接種しない」を選んだ人はもちろん、接種に前向きな人たちも、国内で承認前のワクチンについて安全性への不安が払拭されていない状況が見て取れる。

医師の不安だという声ばかり取り上げて、ワクチンの安全性に関する現状の分析がありません。安全性の確認をするなら、いくらでも情報ソースはあるはずなのに。

ご覧の通りの内容にも関わらず、本当に、不安を煽る意図がなかった、反ワクチンの意図がなかったと思っているとしたら、AERAの編集部は一度編集の仕事を勉強しなおすことを私はお勧めします。なにしろ、見出しの持つ意味や、記事のタイトルや、記事の内容が、訴えたいだろうこととズレているのに、指摘されなければ編集部では誰も気付かないし、あまつさえ、編集者が「一部切り取って「反ワクチン誘導記事」と偏った捉え方をされています」と言っちゃうんだから。

もし本当に伝えたいことが伝わっているなら、肝心の医師からこんなリアクションはあったでしょうか。

もしかしたら、AERAを出版している朝日新聞出版の人たちは、こんなリアクションがあるなんて思ってもいなかったかも知れません。

本当にそうなら、私は非常に残念です。

何しろ、朝日新聞出版は過去に同じくワクチン関連である、子宮頸がんワクチンの接種について、さんざんネガティブキャンペーンを張って、相当批判されたのだから。それからの学びがほとんどなかったというわけですから。

どんなキャンペーンだったかはAERA dotの『子宮頸がんワクチン』の検索結果を見るとその一端が分かります。

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酷いタイトルが並んでいますよね。宋美玄さんも当時から、不安を煽り、内容も偏っていると指摘をしています。

2013年当時に何があったかは、医師の峰宗太郎さんの次の記事をご覧になってください。メディアによるネガティブキャンペーンによる子宮頸がんワクチン叩きはそれは強烈なものでした。

メディア、政治、行政、医療者の責任は? 日本でなぜHPVワクチンはうたれなくなったのか

また、朝日新聞出版の親会社である朝日新聞の記事が悪い意味で潮目を変えたという分析もあります。

「救えるはずの患者を救えない」 子宮頸がんワクチン副作用「問題」はなぜ起きた?

2013年3月に何があったのか。津田さんは朝日新聞の1本の記事をあげる。東京都内の女子中学生について報じた記事だ。

(中略)

この記事を契機に、副作用を問題視する記事が次々と報道された。そのなかには、接種した後、発作のようなけいれんを引き起こすこと、あるいは歩くことすら困難な姿を強調するものもあった。副作用を訴える声は、全国各地に広がっていくことになる。

どちらもBuzfeedの記事です。

直近になって、朝日新聞出版は子宮頸がんワクチンの接種率が日本で低いことが問題である記事をWebに掲載していますが、 

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結局、公式な謝罪や釈明は一切ありません。

昨年には、日本で子宮頸がんワクチンの接種率が激減したことで、2000~03年度生まれの女性で死者が計4000人発生し、今後も同様の低い接種率であれば毎年1000人強の"死亡するリスクが確定した"という論文が発表されたにも関わらず、です。

子宮頸がん死亡4000人増「接種中止の結末示したかった」-大阪大産婦人科研究チームに聞く◆Vol.1|医療維新 - m3.comの医療コラム

――研究の結果は、平易に言えば、現状の1%以下の接種率が続く限り毎年4000人強の罹患と1000人強の死亡が確定し続けるということでしょうか。

私たちは罹患と死亡の「リスクが確定した」と表現しています。

定期接種の上限年齢が16歳と決まっていますが、2000年度から2003年度生まれの人は既に16歳を超えてしまっています。今後、その人たちが例えば「一生、性交渉を持たない」「頻繁に子宮頸がん検診に行く」というように行動を変えない限りは、この確率はほぼ確定したと言えるということです。

子宮頸がんに罹患しないために、「一生、性交渉を持たない」ようにしないといけないなんて、なんて、酷い。

朝日新聞グループが打ったネガティブキャンペーンで一体どんな結果を生み出したか、生み出し続けているか、再発防止策の社内での徹底があれば、今回のようなAERAの見出し・記事にはならなかったはずです。結果論であればなんとでも言えると言われるかも知れませんが、当時からメディアの報道姿勢には中立性に欠ける偏った内容として少なからず批判がありました。

どうか朝日新聞グループの社員の皆さんに良心があり、また、自身の過失を省みる自浄作用があるのであれば、新型コロナウイルスのワクチンについても、同じような過ちを繰り返さないでください。

また、お願いだから、2020年になってもホメオパシーを評価するような記事を掲載しないでください。

理にかなわないが…帯津医師「ホメオパシー」のがん患者への「有効性」実感 (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

あの日本学術会議の会長もホメオパシーは明確に否定しています。

「ホメオパシー」についての会長談話

日本ではホメオパシーを信じる人はそれほど多くないのですが、今のうちに医療・歯科医療・獣医療現場からこれを排除する努力が行われなければ「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米と同様の深刻な事態に陥ることが懸念されます。そしてすべての関係者はホメオパシーのような非科学を排除して正しい科学を広める役割を果たさなくてはなりません。

最後にもう一度申しますが、ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います。

朝日新聞出版は、適切な医師の監修なしに医療系の記事を掲載するのは今後一切止めるべきです。

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