斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

『ボールルームへようこそ』10巻での釘宮の復活と作者・竹内友さんの復活が重なって見えて泣いてしまった

私は面白いと思って読み始めた漫画は完結するまで読むようにしています。中には休載期間があって単行本が出たことを気付かずにいる作品もあり、『ボールルームへようこそ』も今年1月に発売された単行本を今になってようやく読みました。

『ボールルームへようこそ』は競技ダンス漫画です。作者の竹内友さんは美大卒で、もともとダンス経験者。私は社交ダンスを軽くしたことがあるぐらいであまり詳しいわけではなかったので、漫画を読みながら競技ダンスの世界を知るのがとても楽しみでした。

ボールルームへようこそ(1) (月刊少年マガジンコミックス)

※数々の漫画賞を受賞し、アニメ化もされているので知っている人も多いはず

連載開始は2012年で、既刊10巻です。通常週刊連載であれば単行本は1年間に4-5冊、月刊誌でも年2冊は発売されるので、8年間で既刊10巻ということは間が空いたことが想像できるかと思います。『ボールルームへようこそ』の単行本が発売された具体的な日は以下のとおりです。

  1. 2012年5月17日発行
  2. 2012年7月17日発行
  3. 2012年11月16日発行
  4. 2013年4月17日発行
  5. 2013年9月17日発行
  6. 2014年4月17日発行
  7. 2014年11月17日発行
  8. 2015年10月16日発行
  9. 2017年6月23日発行
  10. 2020年1月17日発行

見て分かる通り7巻までは月刊誌掲載漫画としては通常のペースで、8巻発売には1年かかり、9巻発売には1年半かかり、そして、私が手にとった10巻には2年半の時間がかかっています。

私は2012年に『ボールルームへようこそ』を読み始めてずっと楽しんでいたものの、10巻の前の9巻は凄く違和感を覚えながら読んだことを覚えています。それまでの展開と異なり、主人公が一巻をかけても成長する気配がなく、同じところをぐるぐる回っている印象でした。作者がこの作品をどう持っていったらいいか煮詰まっているのかもしれないと思いました。健康に何かあったのではないかと推測しました。

このまま新刊が出ないかもしれない、面白い作品が完結しないで終わるのだろうと思いながら、9巻が発売された以降の3年間を過ごしていたら、実は今年1月に新刊が発売されていたのを知ったわけです。雑誌掲載時を確認したら、2017年8月号、10月号、12月号、2018年1月号、2019年8~10月号と実に2年に渡った話が掲載されていたのでした。

少し期待値を下げて読み始めたら、10巻は前のような作品に戻っていて楽しく読めました。いや、前と同じに戻ったというのは正確ではなく、以前より新たな表現も増え、そして、鬼気迫っているところがありました。

この辺をもう少し詳しく書きます。

『ボールルームへようこそ』10巻では、競技ダンスのシーンはもちろん描かれているのですが、1/4ぐらいのページを使って、とある登場人物の人生の振り返りが行われています。この登場人物は釘宮 方美(くぎみや まさみ)と言い、長身で華のあるダンスはするものの、性格に難があるキャラとして描かれており、決して魅力的なキャラクターではありません。『ボールルームへようこそ』に登場する他の男性陣がみな華やかであるために、相対的な魅力はかなり落ちます。

以下の画像は、TVアニメ化したときの釘宮です。

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※画像はCharacter | TVアニメ「ボールルームへようこそ」公式サイトより

どう見ても悪役です。

10巻では、まるまる一話を使って、この釘宮がなぜ競技ダンスの世界に入ろうとしたのか、小学校5年生から遡って語られていきます。

優秀な双子の兄から年が離れた三男で、ぼーっとした男の子がひょんなことから社交ダンス教室に通うこととなり、父親と違い自分を認めてくれる指導者の下でメキメキと成長し、素晴らしいダンサーとなります。しかし、続々と他のライバルたちが登場していく中で、なぜ自分が地獄のような苦しみをしながらダンスを続けているのかに思い苦しみ、いっそ死んだほうが楽になるのではと思っていたところで、交通事故に遭います。これでダンスの世界から足を洗うかと思いきや、周囲の人間の存在と、自分の中でどうしてもダンスを捨てきれずに、1年間のリハビリと、1年間の練習を経て……

地獄の競技ダンスの世界に戻ってきたというわけです。

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※画像は10巻から

たぶん、この画像だけ見たら、「やっぱり悪役っぽい。怖い」と思うでしょうし、私も「やっぱり釘宮の顔は怖いな」と思うのですが、このまるまる一話を読んだ後では、この表情に多くの情報が読み取れ、釘宮が凄く好きになりましたし、竹内友さんの表現力に感嘆したのでした。

そして、10巻の最後には、交通事故の後遺症で十分に身体が動かないものの、自身のトラウマと向き合うことで、素晴らしいダンスを披露する釘宮が描かれて終わります。もやは主人公の多々良(たたら)そっちのけで。

私が読了してすぐに思ったのは、この巻は釘宮というキャラクターの復活劇が描かれているけれど、もしかしたら、作者の竹内友さんの心の葛藤と本人が吹っ切れるまでのプロセスを釘宮に重ね合わせて描いているのではないかということです。竹内友さんが連載が順調に進まなくなった8巻~9巻あたりでの心の変化を漫画にしたのが10巻ではないかと。

そこまで考えて、勝手に一人で感極まって泣いてしまいました。竹内友さんが漫画を再び描けるようになって、発売日さえもまともに知らない不良ファンであるものの、作品の一人のファンとして凄く嬉しかった。

と、ここまでで書いたら、「実際、竹内友さんが連載に時間がかかっていたのは何があったのか」と疑問に思う人はいるでしょうし、私も、「そういえば調べたことはなかったけれど、どうだったんだろう?」と読了後の感極まった状態で、竹内友さんのTwitterを読みました。

Tweet数が少なかったため、4-5年遡って読み返すのにそんなに時間は必要ありませんでした。以下、休載に関わるTweetです。

やはり単行本8-9巻あたりのタイミングで体調を崩されていたようです。 

実際、竹内友さんも釘宮のように何かがあってリハビリが必要だったというのは同じだったようですが、必ずしもその経験があったから10巻の内容に繋がったと断言できるわけではなく、私が読み取った内容はあくまで私の解釈に過ぎません。

いずれにせよ、これからも私は『ボールルームへようこそ』を読み続けるつもりです。

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