斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

一人の親としてディズニー新作実写映画『ムーラン』を子どもと観るか悩んだ話

私がもっとも好きな映画の一つはディズニー製作の『メリー・ポピンズ』です。

テープが擦り切れるほど観た『メリー・ポピンズ』

私は小学生の頃に、日中の親がいない暇な時間に、親がビデオテープ(VHS)で録画していた古い映画を引っ張り出して観ることを一つの楽しみにしていました。

色んな映画を観たはずだけど何を観たかは覚えておらず、何度も観た記憶があり、そして、今でも自分の子どもにお勧めしているのが1964年にディズニーが製作したミュージカル映画『メリー・ポピンズ』です。

メリーポピンズ (字幕版)

一昨年に続編が公開されたため、作品をご存じの方も多いのではないでしょうか。実写とアニメが融合された、今見ても古さを感じさせない、濃密で創造性に富んだ作品です。

未見の人にはぜひ観てみてください。スポンスポンと煙突から煙突掃除の男たちが飛び出すシーンや、笑い病?でお茶会が空中で行われるシーンは思わず笑みが溢れてしまいます。

『メリー・ポピンズ』に限らず、ディズニーの実写・アニメ映画は優しい作品が多く、親視点から子どもと一緒に観るのに安心感があるレーベルの一つです。でした。少なくとも、これまでは。

ここで、本題です。実写版『ムーラン』のこと……!

新疆ウイグル自治区で撮影されていた実写版『ムーラン』

実写『ムーラン』は、同じくディズニーが製作した、元アニメ映画です。これが議論を呼んでいます。

ディズニー新作映画「ムーラン」、新疆で撮影 エンドロールで発覚 - BBCニュース

ディズニー映画「ムーラン」高まる批判 中国当局が協力:朝日新聞デジタル

もともとストーリが政治的にどうなのか、主演の女優の香港デモへの否定的な発言などで物議を醸してはいたのですが、コロナ禍で映画館での上映を取りやめディズニープラスでの配信を開始したところ、エンドロールで新疆ウイグル自治区での撮影が行われたことが発覚し、大騒ぎになったわけです。

すでに散々報道されていますから、多くの人がご存知の通り、新疆は現在進行系で文化的ジェノサイドが行われている最中の場所です(あくまで疑惑だけれど、私の認識ではほぼ黒に近い灰色)。直近、ウイグル人を増やさないために不妊を強制しているという報告書が公表されたのもよく知られているのではないでしょうか。

中国、人口抑制でウイグル人に不妊強制か 報告書 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

中国政府は自発的不妊手術としています。そうか、イスラム教徒のウイグル人が自発的に不妊をしているのか……とは私は思っていません。

その新疆ウイグル自治区で、ディズニーの実写映画(の一部)が撮影されたことが判明したわけです。中国共産党・新疆ウイグル自治区委員会広報部の協力もあり、撮影場所の付近には強制収容所もあるらしいということだから、そんな場所で(もちろんウイグルの悲劇に触れることなく)撮影するなんて、ジェノサイドを肯定しているようなものじゃないかという批判をされているという次第です。

ディズニーの公式反応はまだ

ネットで騒動になっているだけではなく、ディズニーのCFOも事態は認識しているし、米国の共和党の上院議員も問題視し、日本では日本ウイグル協会も声明を出していたりするので、

ディズニー映画「ムーラン」に対して日本ウイグル協会からの声明 | 日本ウイグル協会

ディズニーが公式に何らかのリアクションをするのは時間の問題だと思っています。公式Twitterに対しても、批判的なTweetがぶら下がっていますしね。

ウォルト・ディズニーは売上の7割が北米で、アジアはまだ10%ぐらいです。そのうちの中国は急成長市場ですから、ディズニーとしては中国マーケットはどうしても強化していきたいところ。

仮に、実写版『ムーラン』の新疆での撮影について肯定的な声明を出せば基盤マーケットである北米での信頼をかなり失いますし、否定するようなリアクションを出せば中国共産党からディズニーの中国での地位を強制的に排除されるリスクも否定できません。

この判断はウォルト・ディズニーの今後の収益・株価にも影響を与えるものになるはずです。ディズニーの中の人たち、身から出た錆ですが、大変でしょうね……。

公式待ちだけど、まだ子どもとは観れないな!

ここまでを前提として、一親として実写映画『ムーラン』を子どもと観るものか悩みました。

世の中に映画は溢れかえっているし、私が好きなディズニーの製作だからって必ず観なきゃいけないわけじゃないから、この作品を観なければいいだけのことではあるけれど、それだけの整理でいいのかと私の中で少し引っかかるものもありました。

で、ちょっと考えてみて思ったのは、これはフェアトレードの概念に近いなということ。

私は、私の子どもの世代には、私の世代の負の遺産はできるだけ残したくないから、日々の消費ではフェアトレードは意識していて、児童労働や搾取によって作られたサービス・製品を買わないようにしています。

もちろん、全部のサービス・製品がそうであるかを確認するのは限界がある。アパレルなんかはフェアトレード的にアウトなことがしばしば摘発されるため、できる範囲で意識的に避けるようにはしています。

私が大好きなアニメーション制作会社であるP.A.WORKSの給与が話題になったときには、一時距離を置きました。今年上映された劇場版『SHIROBAKO』は映画館に観に行ったけどね!

劇場版『SHIROBAKO』は私の中での正しいTVアニメの映画版だった。至福の"仕事の"時間をありがとう - 斗比主閲子の姑日記

日本は相変わらず政治家や企業経営者に女性が少なく、また、パワハラ・セクハラ・いじめが撲滅されたかといえば必ずしもそうではありません。私は日々の投票行動で社会ができるだけ良くなるように表明していますが、購買行動においても同様に少しでも社会が良くなるように、次世代に負債を残さないようにしたいと考えています。

というわけで、現時点での私の結論としては、少なくとも公式声明が出るまでは、私から子どもに積極的に働きかけて一緒に観ることはしないつもりです。

もちろん、子どもが自主的に観るのは否定しないのは基本ですけどね。我が家はディズニープラスを契約していないから自宅で子どもが観ることはまずないだろうな。

余談

ちなみに、子どもに「新疆ウイグル自治区って知ってる?」と聞いたら知らなかったので、私の子どもが主なニュースソースとしている子ども新聞ではあんまり話題になっていない様子。

知らずに選択してしまっていることと、知った上での選択というのは大きな違いがありますし、中途半端な知識だと中国人への差別意識を持つだけで終わってしまうので(子どもの同級生には中国国籍の子どもはいる)、この分野はできるだけ丁寧に子どもが知る機会を提供するつもりです。 

※ウイグルの問題で中国をもっとも批判している、イギリスでの"人種"の話。とても面白く、子どもに読み聞かせしようと画策しています。無料お試し版でもかなり読めるのでぜひ。