斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

”米富裕層の資産、コロナ禍の3カ月で62兆円増える”という釣りニュース

次のような釣りニュースが話題になっていました。

CNN.co.jp : 米富裕層の資産、コロナ禍の3カ月で62兆円増える

報告書によると富裕層らの現在の資産総額は3兆5000億ドルで、感染拡大初期から19%増加した。アマゾンを率いるジェフ・ベゾス氏の資産だけでも、3月18日時点と比べて362億ドル増えたという。

富裕層の資産が感染拡大初期の3/18から比べて現時点で19%も増えたというものです。

で、これがなぜ釣りニュースかというと、起点としている3/18はほぼコロナ危機で米国株価が底になっていたタイミングだからです。正確には3/23が底でした。今は株価がその時に比べれば30%ぐらい上がっていますから、富裕層でなくても、その時点にS&P500を保有していれば、誰でも投資額が30%ぐらい増えています。

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※画像はS&P 500 (^GSPC) Charts, Data & News - Yahoo Financeより

ジェフ・ベゾスを例に出しているのもかなり露骨ですよね。なぜなら彼の資産は未だにAmazon株が中心で、Amazon株は今のタイミングでもっとも上昇している株の一つですから。資産が増えてて当然です。

一方で、ヴァージン航空の株が資産の多くを占めると思われるリチャード・ブランソンの資産ならこのタイミングでかなり減少しているはずです。

ヴァージン航空2社が存亡の危機とブランソン氏、政府支援訴え - Bloomberg

ちなみに、2009年3月2日を起点にすると、米国インデックスをメインに投資している富裕層の資産は4.5倍に増えているはずです。2009年3月2日は俗に言うリーマンショック後の最安値です。

さらにさらに、運用資産が減少すると怒られ、増加しても注目されないGPIFによる日本の年金資産も3/18を起点にそこそこ増加しているはずです。GPIFの投資先は海外株式と日本株式で5割ですから。日本の株価も相当戻ってきていますから。上に紹介したCNNの記事に憤る日本人は、同時に自分たちの年金資産も3/18に比べれば増えているのだから喜ぶといいと思います。

ここまでで何が言いたいかは分かると思いますが、分からない人向けに書きますと、株式投資っていつが底かなんて後からでしか分からないということです。結果的に底に近かった今年の3/25に私は次の記事を書きましたが、

「一生に6度ぐらいの大バーゲン」だから、富裕層として暴落してる国内REITを臨時買いし、毎月の積立額を2倍に設定した - 斗比主閲子の姑日記

「落ちてくるナイフはつかむな」という格言が投資の世界ではありますが、ナイフがいつ底についたかなんて私には分からないので、落ちてくるナイフをあと1年間は毎月つかみ続けるつもりです。

このときには、その時点が底でここまで株価が回復するとは思っていませんでした。今は戻りすぎてちょっとしたバブルです。何しろ、コロナ危機が起きる前でも実態以上に株価が高かったのに、今は更に実態が伴っていないのですから。

底のときの数字を拾ってきて、「こんなに良くなった!(から投資をしよう)」というのは証券会社の営業がやる、手垢のついた常套手段です。ある一時点からの比較には注意しましょう。

なお、私は5年以上前から何度も書いている通り、資産課税強化主義者であるため、このニュースに関係なく、富裕層の資産には世界的に課税をするべきだと考えています。