斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

高校での地毛の黒染め強要、明るい地毛での卒業式の出席拒否、地毛証明書……多様性はお題目?

このニュースが話題になっていました。

「黒染め強要で不登校」生まれつき茶髪の女子高生が提訴:朝日新聞デジタル

大阪の高校が女子生徒に対し、地毛だと分かっていても何度も染めさせていたそうです。結果、生徒は不登校になったというもの。 

 

地毛の黒染め強制はアイデンティティの否定

この高校の対応の何が悪いか分からない人向けに、私がTwitterでフォローしている、くっきーさんのこの件に関するTweetを紹介します。

要は、地毛を黒く染めろというのは、本人のアイデンティティを否定してるんですよね。『千と千尋の神隠し』で、湯婆婆が千尋から名前を最初に奪ったことで、千尋のアイデンティティを喪失させてましたけど、同じようなもの。

さらに、この高校は、

「生来的に金髪の外国人留学生でも、規則では黒染めをさせることになる」とも述べたという。

こんなことも言っていたとのこと。これは更にヤバい。この高校は府立高(公立)なんですけど、エクストリーム「郷に入っては郷に従え」ですね。

私の子どもの頃ならまだしも、在留外国人が毎年過去最高となっている現代日本で、これを言ってしまうのは、あまりにも感覚がズレています。

在留外国人:最多238万人…永住者、20年で10倍 - 毎日新聞

学校規則で生徒が死亡した校門圧死事件

ちなみに、私の子どもの頃の校則絡みの問題といえば、1990年、神戸の高校で、先生が遅刻対策で校門を閉めたことによって、女子生徒が校門で圧死した事件がありました。今の人には信じられないかもしれませんが、本当にあったことです。

神戸高塚高校校門圧死事件 - Wikipedia

先生個人に問題があるように考えられる一方で、

また、遅刻者に校庭を2周走らせたり、スクワット系柔軟体操を数十回やらせるという罰を課していた理由について、1991年4月の転勤者の辞令交付のオリエンテーションで新校長は「8時35分の出席確認に間に合わないようにするため」と説明した。つまり、教室でのホームルームは8時35分開始となっているため、校門指導での遅刻を出席簿や調査書に反映させるため、罰を課して間に合わないようにしていた、という。

学校側はこんな仕組みを導入していたそうです。この事件が起きたのは組織に問題があったと言えるでしょう。私の観測範囲ですが、この学校に限らず、昔は相当ガチガチに先生が生徒を管理していた記憶があります。

「地毛が明るい色の生徒は卒業式に出ないほうが望ましい」という高校

ひるがえって、今回のような出来事を見ると、まだ日本の学校はこんなものかという、絶望感を覚えるところがあります。

しかし、この件はあくまでn=1にすぎないですから、さすがに一般化するのもよろしくないと、もう少し調べてみました。すると、東京の高校でも同様の指導が行われていたことが分かりました。地毛が明るい生徒は黒く染めさせて、地毛だと卒業式には出席させないというものです。

以下は、東京弁護士会による、その高校への今年、2017年3月の警告書です。

都立高等学校頭髪指導による人権侵害事件(PDF:151KB)

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東京弁護士会による高校への警告

この警告書では、事実が何で、生徒と学校側がお互いにどう主張しているかが分かりやすく整理されています。そのうち、学校側の主張がちゃんちゃらおかしくて笑ってしまいました。

2 貴校の主張

(2) 在校生として卒業式に出るために、茶色い地毛を隠すために黒く染髪するようにとは一切言っていない。

 ということですけど、

(9) 卒業式に出席させる在校生は学校が判断するが、基本は地毛が明るい色の生徒は出さないというか、出ないほうが望ましいと考えている。

こんなことも言っちゃってるらしい。さっきの府立高と発想が同じですよね。黒髪史上主義。個人の趣味ならまだ分かりますが、学校が主張するようだと頭が痛い。ちなみに、この高校は都立高なので、公立であるというのも同じです。 

2017 Essex High School Graduation

※日本だったら卒業式に出られない?

東京都の都立高の6割で「地毛証明書」を生徒に出させている

ここまではn=2です。他はパッと検索した限りでは見つけられなかった。でも、この2校だけなのかといえば、たぶん違うと思うんですよね。

同じく今年、4月の朝日新聞の取材によれば、

「地毛証明書」、都立高の6割で 幼児期の写真を要求も:朝日新聞デジタル

朝日新聞は全日制の都立高(173校)の校長や副校長らに取材し、地毛証明書の有無を聞いた。170校が取材に応じ、全校の57%の98校が「ある」と回答。少なくとも19校が、幼児や中学生の時の髪の毛が分かる写真も求めていた。

6割の東京都立の高校が地毛証明書を書かせている。こんな馬鹿なことしてる高校がこれだけあるなら、地毛が明るい生徒に黒く染めるよう指導している学校は他にもあるでしょう。

地毛検査のためのカラーリングレベルスケール、地毛登録契約

地毛証明書について調べていたら、こちらも公立である、大阪府立高でこんな指導がされていることを見つけました。

大阪府立成城高等学校の校則について

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地毛の場合は学校側の手続きで地毛の色を測定し、その明るさを登録するというもの。"カラーリングレベルスケールの番号として記号化"や"「地毛登録」を契約"は、凄いパワーワードですね。

肝心の、地毛登録絡みの詳細は更に凄い。

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年8回、卒業するまで地毛登録違反をしていないか教員の確認が必要。ちなみに、地毛色は全職員に伝達される。地毛測定においては、準備期間が設けられて、毎日、生徒指導室で頭髪状況がチェックされる……。覚せい剤使用の検査かなんかでしょうか。

締め

2016年に、中教審がまとめた学習指導要領改善の答申では、こんなことが書かれています。

幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)

グローバル化する中で世界と向き合うことが求められている我が国においては、自国や他国の言語や文化を理解し、日本人としての美徳やよさを生かしグローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成が求められている。

グローバル対応というのは色々ありますから、必ずしも一例でどうのこうのじゃないですけど、髪の毛の色だけでこんなくだらないことを続けていて、"グローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成"なんて育成されるんでしょうかね。

私は、グローバル化と関係なく、地毛を染めさせるのとか、証明書を出させるのとかは、間違った指導方針だと考えています。グローバル化は権威ある中教審が言っていることなら、頭の固い人たちにも効くだろうという発想で、紹介したまでです。

あまりに細かく厳しい校則や生徒心得の何が問題かって、子どもを信頼していないんですよね。子どもが間違いを起こす前提で、子どもを管理することを念頭に置いている。子どもをいつまでも支配下に置く親と同じで、こんなやり方で子どもを教育していたら、自立の芽をつむだけです。グローバル化以前の問題。

ただ、学校側が悪いかといえば、背景として、

「地毛証明書」、都立高の6割で 幼児期の写真を要求も:朝日新聞デジタル

背景には、生徒とのトラブルを防ぐほか、私立高との競争が激しく、生活指導をきちんとしていることを保護者や生徒にアピールするねらいもある。

親や生徒が期待していたり、地域も学校側に「しっかり指導してくださいね!」と要請していたりする部分もある。だから、学校の指導心得に問題があると感じるなら、"世間""民意"として、必ずしも誰もが要請しているものではないと伝えることは意味があると思います。

というわけで、その一端としてこの記事を書いた次第です。

私は、髪の色だけではなく、髪の毛の長さ(眉毛の1cm上までとか)、スカートの長さ、靴下の色、学校帰りの買い食いにまで口出しする非常に細かく厳しい校則や生徒心得は、子どものために、好ましくないと考えています。

参考:生徒心得 pdf - Google 検索