前回に引き続き、今回も読者から送られてきたメールにコメントします。今日は「子どもの成長をともに見守るパートナーがいなくなったらどうしますか」というもの。
悲嘆に暮れている暇はなく、子育てが私の使命
トピシュさん
はじめまして。朝子とでも呼んでください。
いきなり質問、しかも仮定にしても不吉な話で申し訳ありませんが「トピシュさんが、パートナーを亡くされて、ともに子供の成長を見守る存在がなくなったらどうするか?」を教えていただけないでしょうか。
私自身は、子供を持つ母親です。夫とは死別しました。夫の死後数年経っておりますが、悲嘆に暮れているヒマはなく子供を育て上げることが私の使命とばかりに生きておりまして、精神的には相当頑丈にできているので、だいたい大丈夫なんですが、以下の記事で、グリーフケアについて取り上げる可能性を拝見して、早く読みたいな、とは思いました。
「彼女から別れを切り出されて、まだ未練がある。この気持ちをどう処理したらいいか」 - 斗比主閲子の姑日記
私が結婚して子供を持った理由も(トピシュさんと同じように)「暇つぶし」みたいなものでした。でも、それはパートナーありきだったんですよね。
自分の人生の大枠は中学生くらいに考えて、それに見合った夫を探して捕まえて無事結婚して、多少ズレながらも想定したように子供を産んで、わーわー言いつつ夫と共通の趣味となりうる子供を育てあげ、老後はそれらの時間をしみじみと思い出しつつ、お茶でもすすってる予定でしたが、おお、おっとよ!しんでしまうとはなにごとだ。
もちろん子育て自体を一人で楽しむこともできると思うのですが、それだと楽しさ半減、うーん7割減みたいな気持ちです。自分の規定してたルートを外れたことの調整がなかなかできない。
グリーフケアサイトもそれなりに見たのですが、なんかこう、悲嘆にくれるのが前提のようになっていて、そうでなく立ち向かわざるを得ない場合とか現実的で前向きな解決策が言語化されていれば、きっと何かの助けになるんじゃないかなと思っています。
お盆で帰ってくる人たちを迎えるときにも悲嘆だけではないと思うんですよね。もしお時間ありましたら是非お願いします。
ちなみに、夫の葬式に現れた義母の友人(初対面)から「絶対再婚はするな」と言われるなど、ほっこりエピソードはいろいろありますが、ありすぎて今は書ききれませんので、もし詳細をお話する機会があればいろいろお伝えしたいと思います。彼氏はつくりましたw
朝子
パートナーとの死別後の対処を考えてみる
まずは、お疲れ様です。大変だったでしょうね。
お題は、
いきなり質問、しかも仮定にしても不吉な話で申し訳ありませんが「トピシュさんが、パートナーを亡くされて、ともに子供の成長を見守る存在がなくなったらどうするか?」を教えていただけないでしょうか。
ということですけど、
グリーフケアサイトもそれなりに見たのですが、なんかこう、悲嘆にくれるのが前提のようになっていて、そうでなく立ち向かわざるを得ない場合とか現実的で前向きな解決策が言語化されていれば、きっと何かの助けになるんじゃないかなと思っています。
ともあるので、私が実際にどうするかというより、パートナーと死別した後の子育てでの対処をグリーフケアに限定しないで書いて欲しいと理解しました。
死別を悲しむのは地雷を作り出さないため
意識するといいのはこういうことかなと思います。
- パートナーとの死別を悲しむ
- 他人に状況を意識的にシェアする
- 親や行政など使える支援は可能な限り使う
- お金の計算
2~4は分かりやすいとして、1が一番大事なことだと私は考えています。
メールを送られた朝子さんは、
悲嘆に暮れているヒマはなく子供を育て上げることが私の使命とばかりに生きておりまして、
グリーフケアサイトもそれなりに見たのですが、なんかこう、悲嘆にくれるのが前提のようになっていて、
ということで、悲しむことをあまり必要とされていなかったようですが、一般論としては死別後に悲しむのは大切なプロセスです。
これは、人が死んだら悲しむべきという倫理観で申し上げているわけではなく(私がそんなことを言う人間ではないとみなさんご存知でしょう)、辛いときに辛いとしっかり感じておいたほうが、悲しみが後々になって地雷になりにくいという現実的な理由からです。
詳しくは専門家の本をどうぞ。
悲しみにおしつぶされないために―対人援助職のグリーフケア入門
- 作者: 水澤都加佐,スコットジョンソン,Scott Johnson
- 出版社/メーカー: 大月書店
- 発売日: 2010/09/01
- メディア: 単行本
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この本は、援助職、つまり医者や看護士のような、死別の悲しみに苦しむ人と接することが多い職業の人向けに、どのように死別の悲しみに対処するかを書いています。要するにプロ向けの本。
忙しいからとか、立場があるからとかで、死別の悲しみを抑圧して、悲しみを受け入れていないと、どこかで爆発しがちなんですよね。例えば次の例のように。
母親を数ヶ月前になくした妻がいます。ある晩、夫が、「今日のカレーライスはあまりからくなかったね」と言いました。すると、妻は急に涙をうかべて叫びました。「あなた、そんなに私のつくったカレーがいやなら、自分でつくればいいでしょう。一生懸命つくったのに、あなたってひどい人ね!」
何気なく「からくないね」と言った夫はびっくりです。普通だったら、「あらそう、じゃあ次はもう少しカレー粉を入れようかしら」で、すむはずの話なのに。
(『悲しみにおしつぶされないために―対人援助職のグリーフケア入門』p.33より)
私の友人に、自殺した母親の第一発見者になった子がいましたけど、その子は、母親が自殺した後しばらく、周りの発言にガンガン噛み付いていたのを覚えています。友達激減してた。
私の印象として、死別の悲しみに限らず、そのときに感じておくといい感情、特に一般に負の感情と呼ばれているものを無理に抑え込んで無視しようとすると、こういう地雷がポコポコ埋められていって、他人の言葉がいちいち自分への攻撃に感じられがち(地雷が爆発しがち)、というのがあります。
グリーフケアのサイトで、悲しみにどういう意味があるのか、どのようなステップを経て悲しみから回復していくものかを説明しているのは、適切に悲しめない人がいるので、悲しみ方を意識的に説明しているんだと思います。
ということで、死別後に悲しむのはたぶん大事。もちろん、悲しいという感情が抑え込まなくても出てこないというのなら、別に無理して悲しむものではないんでしょうけど。
ちなみに、私が好きな、吉田秋生さんの『海街ダイアリー』という漫画では、第一話で、夫に先立たれてワンワン泣く妻と、父親が死んだけれど母(正確には継母)を世話するために葬式で異常にしっかりしている娘が登場します。
「海街diary 1」 | flowers コミックス | 小学館
ここでも死別後にワンワン泣いているほうが強いという描かれ方がされています。何かと登場人物の察しが良すぎるんだけど、やっぱりこの辺の描き方は凄くいい。
『海街diary』の大好きなところとちょっとどうかと思うところ - 斗比主閲子の姑日記
周りへの状況シェアと他人のリソースを使うの超大事
死別後にシングルになったケースと離婚後にシングルになったケースとは違う部分はもちろんたくさんありますが、「一人親になっても二人親ぐらい頑張って子育てしてやろう」と考えることがありえるのは共通するところとしてありますよね。
その考え方が悪いとは思いませんが、子育て自体が大変なものなのに、それを一人でやろうとするのは、状況があるにせよ、物凄くハードなことです。
メールをくれた朝子さんは、
わーわー言いつつ夫と共通の趣味となりうる子供を育てあげ、
もちろん子育て自体を一人で楽しむこともできると思うのですが、それだと楽しさ半減、うーん7割減みたいな気持ち
大変なことも嬉しいこともシェアしてこそ子育てを楽しめるという感覚をお持ちなようです。悲しみを言語化するのが大切なのと同様に、子育てで自分が感じていることを何気に誰かに語れるというのは、それも貴重で、意味のあることだと私も思います。
だから、今自分がどんな状況であるかを親や友達や時には行政にシェアするわけですね。その上で、必要な支援を周りから受ける。これは甘えでもなんでもない。
子育てにかける時間もなくなれば、お金での苦労も出てきます。置かれた状況を自分が正確に理解できなくても、外部が整理してくれて支援してくれることもあります。苦境にあるなら苦境にあることを素直に周りに伝えるのはとても大切なことです。
締め
以上が、私が考える『配偶者との死別後にしたほうがいいこと』です。
最後にちょっとした補足をしておくと、『ホームズの社会的再適応評価尺度』という非常に有名な表があって、この評では結婚のストレスを50点として、ライフイベントのストレスを点数化しています。そして、配偶者の死は最高の100点。アメリカでの研究なので、日本にそのまま当てはめるものじゃないですけど、配偶者との死別というのは、通常相当なストレス源となるものと知られています。周りがサポートするのは当然として、本人も負担になることは意識的にしないほうがいいんでしょうね。
く特集: ストレスと健康》. ライフイベント法とストレス度測定
ちなみに、同じ表では、離婚は73点。別居は65点。子どもがいるかどうかで変わる部分はあるかもしれませんが、それまでのパートナーと離れることは多大なストレスがかかるものです。