斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

子どもが射精を汚らわしくて、恥ずかしくて、大切でないものと思っているようなら、性教育は上手くいってないよね

昨日は、高校生にとって親から性に関する知識を得ることはほとんどないことを紹介しました。今日は、そんな高校生が月経や射精という生理現象をどう受け止めているかを紹介します。

 

男子生徒の2割が射精を恥ずかしがってる

月経に関する調査は多いものの、射精も含めて調査されたものは限定的です。そのうち紹介されることが多いのが、猪瀬優理さんの『中学生・高校生の月経観・射精観とその文化的背景』(現代社会学研究第 23巻 1-18,2010)です。

猪瀬さんのこの論文では、北海道の男子が多い高専の男子と女子校の女子に、月経と射精に関していくつかの質問を行っています。その回答のうち、興味深いものをピックアップしたのが次のグラフです。

f:id:topisyu:20170806002146p:plain

※データの出典は、上述の猪瀬優理『中学生・高校生の月経観・射精観とその文化的背景』(現代社会学研究第 23巻 1-18,2010)。グラフは筆者作成

月経と比べると、射精は汚らわしいもの・恥ずかしいものと答えている割合は男女ともに高く、特に男子生徒が高くなっています。2割の男子生徒が射精は恥ずかしいものと見ている。

また、射精が大切なものと捉えられている割合は、月経より低くなっています。女子の6割しか射精を大切なものとして見ていない。

月経もそうだけど、射精も生理現象として当たり前のものなのに、この結果は衝撃的なところがあります。あくまで限定的な調査ではありますけど。

 

射精は話題にされていない

そもそも射精は月経に比べてあまり公には話題に上りません。

この辺は論文でも触れられていて、まず、

先行研究をみると,月経(初経)については,主に生殖や育児との関連付けから,一定の関心や研究の蓄積があるのに対して,射精(精通)に関する研究は乏しく,生殖や育児との関連付けは希薄である。 

射精については研究も乏しいし、

男性の射精にはその人の性的欲求の発露や快楽性が付随するため,非常に私的なものとみなされ,公的に触れるには繊細な話題となってしまうために,話題にすることが困難なのだという。

プライベートに絡むからと話題にしにくいし(これはアメリカの話ですが、日本でも同じでしょう)、

学校教育の中で性教育の取り組みについても,同様の点が指摘できる。女性に対しては長らく初経教育が実施されてきた一方で,男性に対する精通教育を実施することは少ない。

精通教育がされることが少ない。

私の子どもの頃の保健体育で初潮・月経についてはかなり時間を割かれてましたけど、精通・射精の話はほとんどありませんでした。もちろん個人のプライバシーに関わる部分があるにせよ、射精についてはクローズドな雰囲気が今でもありますよね。

 

締め

この調査結果は、(あくまで限定的な情報であるという前置きで)性教育の敗北を示しているものの一つだと思いました。

月経や射精を経験している本人が、それを個人的に恥ずかしいとか、汚らわしいとか、大切ではないとか思うことは、教育でどうのこうのできることじゃない部分はあるかもしれません。でも、射精を経験する立場ではない女子生徒が、月経よりも射精をネガティブに受け止めているのは、ちょっとどうかと思う。これは、教育でどうにかできる範囲ですよね。

親の中には、幼児期に子どもが性器をいじるのを禁止したり、子ども部屋に入って子どもの持っている雑誌を検閲したりする人がいます。正しい性知識は教えないのに、性を抑圧する方向に動くと、子どもは何を学ぶでしょうか。

雑誌やマンガやインターネットから、子どもが適切でない性知識を得ることはあります。一方で、子どもが適切な性知識を得る機会は限定的です。物事はバランスですから、ネガティブなものに一定の制限を設ける方向だけではなく、ポジティブに、どう性教育をしていくかを語れたほうがいい。

現実として、親も教師も性教育は凄い苦労しているのは確かですからね。子どものためだけではなく、教える方にとって性教育の議論がオープンである意味はあります。