斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

「(mixiのように)ちょっと業績が悪化したらリストラ(整理解雇)できる」という誤解

こんな報道がありました。

ミクシィ朝倉社長「リストラ一切やっていない」 - ITmedia ニュース

 ミクシィの朝倉祐介社長は11月8日に開いた決算会見で、同社でリストラのための“追い出し部屋”が作られ、大規模なリストラが行われているとする一部報道について、「そのようなことは一切やっていない。通常の人事異動だ」と強い調子で否定し、それ以上の説明を避けた

発端ははてな匿名ダイアリーに投稿された記事です。一部報道は例えば、この記事とかです。

「オレンジのソーシャルな会社」の怪文書投稿--ミクシィは250名を超える組織改編へ - CNET Japan

f:id:topisyu:20131111010927p:plain

※ちょっとくすんだオレンジ
 

最初に紹介した方のITmediaの記事のはてなブックマークコメントに、「『堂々とリストラしてます』と言えばいい」といったコメントがついています。

はてなブックマーク - ミクシィ朝倉社長「リストラ一切やっていない」 - ITmedia ニュース

 

mixiが業績が悪化しているからリストラできるんじゃないかということかと思いますが、この程度でリストラできるんでしょうか。

※この場合のリストラ=整理解雇です。

 

 

リストラの分類

まず、リストラという言葉はrestructuringの略称ですが、本来の英語の意味では余剰資産の売却など会社をスリム化する意味もあるのに、日本では大体整理解雇を意味するように使われています。

 

整理解雇とは、いわゆる普通解雇のことで、労働契約法16条で言うところの、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるときの解雇ですね。会社側から働きかけて従業員を解雇させる。

労働契約法

(解雇)

第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

この労働契約法があるので、この条件が満たされない解雇は違法になるわけです。しかし、この条件を満たすのは凄く難しいので(後述)、従業員を辞めさせたい会社としては、退職勧奨、希望退職、早期優遇退職など、従業員に自主的に辞めてもらうように促す取り組みをします。

 

最近、グリーが退職者を200名募集し205名応募するというのがありましたが、あれは希望退職でした。希望する社員は辞めてくれということであり、特に誰かを指定して退職をさせているわけではありません。だから、募集しているよりも多い人数が応募してくることもあるし、会社としては残って欲しい優秀な人間が辞めてしまうこともある。

 

整理解雇は会社が辞めさせる、希望退職(や早期優遇退職)は自分で辞めるという違いがあります。ここがポイント。

 

整理解雇のハードル

それで、整理解雇をするためには最高裁判所の判例から以下の4つの条件が必要とされています。整理解雇の四要件です。

「整理解雇の四要件」とは? - 『日本の人事部』

(1) 人員整理の必要性
どうしても人員を整理しなければならない経営上の理由があること(「経営不振を打開するため」は○、「生産性を向上させるため」は×)。

(2) 解雇回避努力義務の履行
希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向、配置転換、一時帰休の実施など、解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くしていること。

(3) 被解雇者選定の合理性
解雇するための人選基準が評価者の主観に左右されず、合理的かつ公平であること。

(4) 解雇手続の妥当性
解雇の対象者および労働組合または労働者の過半数を代表する者と十分に協議し、整理解雇について納得を得るための努力を尽くしていること。

これは、どれか一つを満たせばいいのではなく、全て(※変わりつつあるという指摘をid:fuka_fukaさんから頂きました!ありがとうございます。次に挿入します)を満たす必要があります。どれもかなり難しい中で、意外にハードルが高いのが(1)人員整理の必要性です。

 

経営不振が酷いと該当する(1)人員整理の必要性ですが、この経営不振は、大体倒産が見えてくるクラスの経営不振です。

 

挿入:id:fuka_fukaさんのご指摘

こういうご指摘本当に助かります。 

 

戻って……どのぐらいの企業が整理解雇をできるか

この要件を満たすのがどれくらい難しいかは具体例を見ていただいたほうがいいのですが、例えば3期連続営業赤字で、自己資本比率が10%が見えていた今年1月のルネサスでさえ、早期退職です。

ビジネスニュース:ルネサスが「40歳以上総合職」の早期退職募集を実施へ、3千数百人規模に - EE Times Japan

同じように巨額の損失を計上したシャープも昨年時点では希望退職です。

希望退職の募集について | ニュースリリース:シャープ

※追記:ブコメに指摘がありましたが、この2社は(2)の途中で(1)は満たしているのでは?というものがありました。確かにその可能性もあるので、四要件を満たすためには相当キツくないといけないという例としてご理解下さい。

 

mixiは業績が悪化していると報道されていてもたかだか一期赤字になるという予想が出ているだけで、

2013/10/1 業績予想及び配当予想の修正並びに役員報酬減額に関するお知らせ(PDF)

直近での自己資本比率は83.5%と超健全です。

2013/11/8 平成26年3月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(PDF)

 

ルネサやシャープの状態でも整理解雇が(認められないことを考慮して)まだできないのに、mixiができるわけがないですよね。

 

誤解の原因

そもそもリストラという曖昧な言葉が日本で流通している点が厄介です。広義で組織再編や会社のスリム化を言っているのか、狭義で整理解雇を意味しているのか。また、最近は希望退職や早期退職がよく聞かれるようになったことで、そちらもリストラと言っている人もいます。言葉を曖昧なまま使うことが広まれば誤解が生じやすいということですね。

 

もう一つ、整理解雇の四要件があまり知られていないこと。実際、裁判にでもならなければ議論にならないので、当然なんですが。上場企業は企業イメージを考慮して凄く気にするけれど、非上場企業は結構簡単に退職強要をしている話も聞かないわけではないので、解雇のしやすさに対するイメージは所属している企業に関係するというのもあります。

 

整理解雇の四要件についてはこれが日本企業の再生のボトルネックになっているという議論もありますが、興味がある人は調べてみるといいかもしれません。

 

追記:誤解がないようにさっくり書きますが、これは日本の法律上、判例上はmixiがこの財務状態で整理解雇をするのは許容される状態ではないということを説明するために書いています。最初のはてな匿名ダイアリーの投稿のように追い出し部屋を作り退職強要をしていたのではないかということについて書いたものではありません。そもそも、退職強要は会社による解雇に限りなく近いので、そうすると……?退職強要してるかと問われ肯定する経営者はいないでしょうね。