本当がわかる、明日が見える『しんぶん赤旗』(共産党の機関紙)で、こんな記事が取り上げられていました。
ワタミ居酒屋 最賃と同額時給で募集/小池氏告発 体力ある大企業がこれではダメ
Twitterでは約3000Tweetされており、『赤旗』がこんなに注目されるというのは凄いものだと感心しましたが、肝心の予算委員会での主張にはちょっとモヤモヤしました。
というのも、
ワタミグループの居酒屋で、各都道府県の最低賃金と同額の時給でアルバイトが募集されていることが、4日の参院予算委員会の小池晃副委員長の質問で明らかになりました(表)。小池氏は「十分に体力がある大企業が最低賃金ギリギリで雇用しているような状態を放置していいのか」と安倍晋三首相に迫りました。
(中略)
同日の予算委には、ワタミグループ創業者で自民党参院議員の渡辺美樹氏が出席していました。ワタミの低賃金の実態が取り上げられると、数人の自民党議員が渡辺氏を探し始めましたが、すでに退席していました。
(中略)
小池氏は「頼りない答弁だ。がつんとものを言うべきだ。支払い能力が十分ある大企業グルーブで、最低賃金ぎりぎりはダメだとはっきり言うべきだ」と主張しました。
このように、ワタミが体力があるとして最低賃金でアルバイトを募集していることを批判していたからです。
モヤモヤした点
topisyuがこの批判でモヤモヤした理由は、よくよく考えてみると以下の3点に集約されました。
- 法律を遵守しているのに、さも問題があるかのように批判していること
- すでに経営者ではない渡邉美樹氏に責任があるように見せていること
- 体力がある企業ならば賃金を最低賃金以上にしなければならないと主張していること
法令<内閣?
まず、一点目。
小池氏は「十分に体力がある大企業が最低賃金ギリギリで雇用しているような状態を放置していいのか」と安倍晋三首相に迫りました。
本文ではこのように、最低賃金ギリギリで雇用していることを批判し、それを是正するように安倍首相に対して主張しています。
では、この問題があるかのように言われている最低賃金とは何かと言えば、最低賃金法に定められたものです。昭和34年に成立し、平成19年に地域別最低賃金が導入された最低賃金法に従って定められたものが最低賃金(最賃)。
ですので、当然ながら最賃で雇用することは法律違反ではありません。例えば、サービス残業(勤務外手当の未払い)、法定休日を与えていないといった法律違反(この場合は労働基準法)というものではない。
そして、ここでは、共産党の小池氏は内閣総理大臣に対して、"最低賃金ぎりぎりはダメだとはっきり言うべきだ"と内閣に個別具体的な対処をするよう主張しているようです。
法律を遵守していて問題だとされてしまったら、何によって経営をしていいか分からなくなります。ガイドラインとしての法律の意味がなくなります。また、内閣による法律外の恣意的な関与を認めるのも民主的なプロセスとは言えません。法律外で政治家は口出ししていいという話になれば、企業は政治家の顔を見て経営をするようになります。
もちろん、背景には、現内閣による経済界への賃上げ要請(とその成果があると主張していること)と、共産党による最賃の引き上げ及び最低賃金法の改正の主張があるにせよ、ここは現在の最低賃金が『労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができ』ない水準であることも合わせて主張しないと、立法府である国会の価値を貶めることになるのではないかとモヤモヤしたわけです。
従業員の問題は株主の責任?
また、2点目のモヤモヤは、
同日の予算委には、ワタミグループ創業者で自民党参院議員の渡辺美樹氏が出席していました。ワタミの低賃金の実態が取り上げられると、数人の自民党議員が渡辺氏を探し始めましたが、すでに退席していました。
この部分です。
これを読むと、さも、現在株主でしかない渡邉美樹氏に責任の所在があるように表現しています。(もちろん、明確には示唆していませんが。)
もし、株主にアルバイトの雇用に関する経営責任があると主張するのであれば、これは、会社法の基本原則である、所有と経営の分離、株主の責任は有限責任であること(出資額分の責任しか負わないこと)を否定しています。
渡邉美樹氏が実質会社を支配しているのだから所有と経営は一体ではないかという観点については、渡邉美樹氏の現在の保有分は、資産管理会社と考えられる有限会社アレーテー経由の25%程度であり、筆頭株主であるものの、支配株主ではありません。また、すべての役職を昨年辞任しています。
体力があるとは?
3点目のモヤモヤは、ワタミを体力が体力がある企業としている点、体力がある企業ならば最賃より上にするべきという点です。
小池氏は「頼りない答弁だ。がつんとものを言うべきだ。支払い能力が十分ある大企業グルーブで、最低賃金ぎりぎりはダメだとはっきり言うべきだ」と主張しました。
支払い能力があるかどうか、体力があるかどうかをどう判断しているのでしょうか。
そもそも、ワタミが体力があるかと言えば、確かに売上高は1600億円と居酒屋業態の中ではトップですが、事業に占める居酒屋事業は半分未満であり、大庄と同じぐらいです。700億円~800億円の売上高。
確かに法律上は中小企業の区分ではありませんが、外食産業全体で見た時にはモスバーガーと同じぐらいで、リーディングカンパニーというわけではありません。
また、業績についても、今年は業績下方修正を出したり、
業績予想の修正に関するお知らせ(証券コード:7522 | IR 書類ナビゲータ)
自己資本比率は2008年以降下がり続け、直近では25%を下回り、資本が厚い状態ではありません。営業利益率も3%程度と高収益企業ということでもない。 この状態で、給料を10%賃上げしたら赤字になる状態です。支払い能力があるなどとはとても言えない。
財務的に体力があるか云々で言えば、体力がないほうですので、最低賃金での雇用を継続してもいいなんて結論になりそうです。
平成26年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(証券コード:7522 | IR 書類ナビゲータ)
売上3000億円、営業利益率が例年8~10%、自己資本比率が80%ある日本マクドナルドをもって"体力がある"などとするのはまだ分かりますが、ワタミでもって"体力がある"などとするのはよく分かりません。
"体力がある""支払い能力がある"などと曖昧な表現でやり玉に上げるのは、批判の方法としては恣意性が高く不適切だと思い、モヤモヤしたわけです。
締め
時には法律を作る、改正させるためにある特定の企業をやり玉にするのは、政治的にはあってしかるべき戦略だとは思います。
ただ、批判の仕方はあると思います。曖昧で恣意性があれば特定企業をイジメることだけで、問題を広範囲に検討できなくなってしまいます。それではもったいないですよね。
以上、本題です。以下、余談です。
余談
ワタミという会社は、労働基準法違反を指摘されるなど労働関係では問題がある企業として批判されることが多いですが、それよりも問題だと個人的に考えるのは利益が少なすぎる点です。
ワタミに、従業員から搾取し、株主や経営者が儲けている企業というイメージはありませんか?そんなことはなく、ワタミは儲かっていない会社です。売上は宅配や介護で伸ばしていても、利益率は下がり続け、今期予想では利益率が1%を切っています。居酒屋事業が特に厳しい状態。
儲かっているなら、付加価値のある企業と言えます。でも、儲かっていない。ブラックと批判されているのに儲かっていない。それの方がよほど問題です。従業員に還元しようがない。
過酷な労働環境と噂され、従業員が過去自殺しているにも関わらず、最賃で応募する人がいるわけですから、雇用を生み出しているという意味では価値があります。
でも、もしかしたら、本当は市場から撤退していなければいけない会社なのかもと考えています。
ちなみに、関係無いですが、経営者ではない役職のない、ただの株主なのに、食事中に店員さんから『○○会長様』と宛名書きされた手紙を目の前で読まれたら、自分なら居心地悪いと思います。関係ない話ですが。
渡邉(わたなべ)美樹 - 仕事を終え議員会館に程近い、ワタミの新ブランド... | Facebook