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斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

マクロビ、玄米食、ガン治療、オーガニック、みそ汁、ブラックジャック

ニュース 子育て 料理 結婚 教育

先々月朝日新聞でこんな記事がありまして、

はなちゃん、みそ汁今朝も 作文「ママとの約束」教材に:朝日新聞デジタル

亡き母から受け継いだレシピで、みそ汁を作り続ける少女の作文がこの春、小学2年生向けの道徳教材に載った。少女は7年前、母をがんで失い、父とふたりの暮らしになった後も毎朝、台所に立ってきた。みそ汁を作っている時は、ママが隣にいる感じがする――。その作文は編集担当者の心を打ち、多くの子どもたちに届けられることになった。

(中略)

父で会社員の信吾さん(51)は12年、闘病生活などについて書いた本「はなちゃんのみそ汁」(文芸春秋)を出版した。千恵さんが闘病中の06年に始めたブログも盛り込み、はなさんも含めて3人の共著にした。本はベストセラーになった。

うちの子どもが読む教材にも採用されるのかなと思い、せっかくなので、大元の『はなちゃんのみそ汁』という本を読んでみました。

 

かなりイマイチ

話としては、ある男女が結婚し、妻が乳がんと分かった後に妊娠・出産し、化学療法で一時は消えたと思われたガンが定期健診を怠った結果手に負えない状態となっていることが分かり、その後夫婦は代替医療にのめり込み、食事療法を試すものの、妻は死ぬという話で、ところどころその食事療法のレシピが紹介されています。

自分はブログではよくない作品はレビューしない方針なので、作品自体の問題点については細かくは触れません。気になる人はAmazonのレビューを読んでみてください。

Amazonカスタマーレビュー はなちゃんのみそ汁(星1つのレビュー)

 

売れるなら何でも利用するメディアの醜悪さ

読んでまず思ったことは、この本を出版した出版社である文藝春秋の醜悪さです。文藝春秋と言えば、先日も自分のブログで紹介しました。月刊誌文藝春秋で、神戸連続児童殺傷事件の家裁判決を18年ぶりに公開しています。

この時にも、文藝春秋は、どういう目的で、わざわざ18年経った今になって家裁判決をまともな補足なく公開したのか甚だ疑問だったのですが、この『はなちゃんのみそ汁』についても、同様の思いを抱きました。どうして、目の肥えた編集者がいるだろう会社が、このような未熟で、内容に問題のある本を出版しようと思ったのか、と。

 

子どもは"だし"

『はなちゃんのみそ汁』に含まれている問題点は多くありますが、大きくは二つに分かれます。一つは代替医療について手放しで賞賛していることと、もう一つは、題字にもあるはなちゃんと父親との関係性です。

 

『はなちゃんのみそ汁』は夫婦の娘であるはなちゃんによる、亡き母への作文から始まります。

(ページ番号記載なし)

ママへ

はなはね、ママに伝えたいことがあるんだよ。それはね、おべんとうが全部作れるようになったこと。びっくしりたでしょ。

冬休み、パパが前の日にお酒を飲みすぎて、ねぼうして、学童保育に持って行くおべんとうを用意してなかった。パパは「あとで持って行くから」と言ったけど、はなは今からでも間に合うと思ったので、パパがお風呂に入っている間、ごはんをたいて、自分でおべんとうを作ってみようと思った。

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父親がお酒を飲み過ぎて寝坊したことから自分でお弁当を作り始めたそうです。使っている漢字からすると小学校三年生の時のものですね。

※学年別に習う漢字はこちら(別表 学年別漢字配当表:文部科学省

 

そして、本の最後は、はなちゃんの父親であり、夫婦の夫から、亡き妻に対しての手紙で終わります。

(P196)

千恵へ

千恵、誕生日おめでとう。

(中略)

千恵に、いちばん、感謝しなければいけないのは、はなを産んでくれたこと。命がけの出産だった。
はながいなかったら、ぼくは今頃、どうなっていたか分からない。
はなは、千恵。千恵は、はな。
いま、ぼくは、はなのために生きることができる。
はなはもうすぐ、小学校四年生。
ぼくにこんなことを言うんだ。
「はなは結婚しないよ。ずっとパパと一緒。

(中略)

以前、テレビ局から取材を受けた。
「はなちゃんは、どうして、おみそ汁を作っているの?」
はなはこう答えていた。
「お母さんとお父さんが笑ってくれるから」
子どもは親の笑顔を見るのが一番うれしくて、幸せなんだよね。

父親が娘を亡き妻の代わりにしていることや、娘が亡き母親の代わりになろうとしていることについて、肯定的に書かれています。

 

今回道徳の教科書に掲載された、娘の作文でも、

みそ汁作り、ママが隣にいる感じ 安武はなさんの作文

私は五さいのときに、ママからみそ汁の作り方を教えてもらいました。まだ、小さかったので、かつおぶしのだしをうまくこすことができず、やけどをしそうになりました。今は上手にできるようになりました。パパが「おいしい」と言ってくれるのが、私は一番うれしいです。

父親のために料理を作っていることがうかがえます。

 

父子家庭でも母子家庭でも共働きでも(そして専業主婦/主夫家庭でも)、家事の一部を子どもが担うことはあることですし、それ自体は否定するものではありません。子どもの自立のために必要な部分があります。

ただ、その家事をする目的が、子どもにとって親のためであり、親の方も子どもが自らのために家事をすることは当然であり、それも母親の代わりになることが目標となっているとしたら話は違います。

 

元の『はなちゃんのみそ汁』を出版した文藝春秋もそうですし、この話を道徳の教科書に掲載しようとした日本標準もそうですし、この道徳の教科書になることを肯定的に報道した朝日新聞も、これらを見て何か思うことはなかったのでしょうか。娘が父親にとっての妻代わりとしてみそ汁を作ることを美談にしてしまって、何かおかしいと思わなかったのか。

 

代替医療とブラックジャック

この本のもう一つの問題点である代替医療絡みでは、興味深い人物が登場します。

それは、現代のブラックジャックと呼ばれるとある医師で、自分の治療方針に疑問を呈した患者は診ないと言い、成分について何の説明もない黒い液体を患者に投与する人物です。この医師は、食事を食べられる限り病気になることはないなど言い、食事療法でのがんの治療も推奨します。

はなちゃんの父親は、このブラックジャックに対して、妻のがんが再発した後何度も連絡し、治療を請うものの「自分の治療行為にあなたが不信を抱いていたのは知っている」「がんが再発したのはあなたのせいだ」と言い、無下にします。(最後の最後は、例の黒い液体だけ処方?提供?しますが。)

科学的に検証されたまともな説明はなく、信じるものだけが救われるとし、相手の人格を否定する姿には、2011年の東日本大震災以降よく話題になるとある医師が重なって見えます。

追記

自分の文章が、「このブラックジャックとリンク先の人物を同一人物視するような記述に見える」と指摘された方がいらっしゃったので補足します。はなちゃんのみそ汁に登場するブラックジャックは本人に関する情報は一切ないものの九州に居を構えているようですから、リンク先の人物とは恐らく別人です。

 

締め

表現の自由は誰にでも与えられるものであり、それは出版社でも、個人でも変わりません。問題があるから口をつぐめというのは、それは検閲に繋がります。

また、子どもが何をどのように吸収するかも子どもの自由であり、親が口を出すものではないと考えています。親だからといって公教育全てに口を出すというものでもないですし、ある部分は教師を信頼し任せるものです。

ただ、一親としては、この作文を自分の子どもが学校の教材として無批判で良いものとして読まされる姿を想像すると、子どもが善意をオブラートにした毒を飲まされているような気持ちになります。

実際、子どもはまともに道徳の教科書は読まないし、批判的に読むこともあるでしょうし、読んだとして全てを吸収するわけでもないので、ここまで書くと少し過剰反応だと思いますけどね。

 

何にせよ、本のタイトルも、本の構成も含めて、何も分かっていない子どもを使って商売をしたり、自分が言いたいことを言わせるやり方は、善意の皮を被っている分、始末に負えないなと思っています。

 

なぜなら、子どもを盾にできますから。批判する側が非道に見えます。

 

 

 

付録

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