斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

妊娠8カ月まで会社の誰にも告げず、予定日の1カ月前に破水したので、出産前日に産休に入る行為は「普通」に頑張っているものか

昨日と同じくTwitterのTLを眺めていたらこの記事が話題になっていました。Twitterでの言及数は間もなく3000です。

大和証券 子育ても仕事も自然体で女性役員に | 日経DUAL

内容は、大和証券初の子育てをしながら役員になった女性役員へのインタビューです。ただ、"働くパパ&ママに役立つ情報サイト"という、日経において子育てをする親に焦点を当てた媒体である日経DUALにも関わらず、インタビューから読者に伝えたいメッセージがかなり「普通」じゃなかったということで、そのギャップで批判的なコメントがされているようです。以下、Tweetの抜粋です。

自分は日経電子版とともに日経DUALの会員でもあるので、早速読んでみたのですが、このブログの読者の方からすると引っ掛かりそうなところがかなりあったので、この記事で紹介する次第です。お好きな人だけどうぞ。

共働きファミリーの仕事と子育て両立バイブル 日経DUALの本

※日経DUAL編集部による子育て本。日経DUALはかなり好きな媒体です。 

 

どこら辺がモヤモヤするか

冒頭文はこちらです。

女性が活躍する会社として知られる大和証券に、また1人女性役員が誕生した。広報部長の白川香名さん(48)だ。同社として6人目の女性役員だが、白川さんの場合、これまでとちょっと違う。子育てをしながら役員になった初のケースだ。同社の鈴木茂晴会長は「これで女性活躍のステージがまた1つ上がった」と語る。

出だしからして不吉な感じがしますね。これまでの5人の女性役員はどういう経歴の人たちだったのか。これ、記事を最後まで読んでからここに立ち返ると印象がガラッと変わるので内容をよく覚えておいて下さい。

それでまずは第一子の出産エピソードです。

第1子を授かったのは山一証券が経営破綻した97年、30歳の時だ。当時の証券会社は、女性社員は結婚すれば辞めるのが普通、残っても妊娠すれば、まずほとんどの女性は退職していた。そんな時代だから、当時の会社には産休、育休などが制度として存在しなかった。

社内の弁護士や人事部などと相談し、白川さんは大和にとって、産休取得の第1号になった。産後8週休んだだけで、すぐに復帰。育休は初めから取るつもりはなかった。

今からすると理解しにくいですが、当時はこういう感覚ですよね。産前産後の6週間の休業を認める産休法自体は1956年に施行されていますし、1992年には男女ともに育児休業を取れる育児休業法も施行されていて、法律的には整備されていても、社会はまだ十分には対応しきっていなかった時代の話。

エンジニアの夫が、子どもが1歳になるまで会社を休んで育児をしてくれた。もしかしたら日本で最初の育メンかもしれない。夫には感謝しているが、育休を取ったことで、夫はその後の昇進などで大きなハンディを負った。第2子を産む時、「今回は無理だから」と夫がいうのも当然といえば当然だった。

それで、この方が育休を取る代わりか、パートナーさんのほうが育休を取ったら、パートナーさんは昇進でハンディを負ったそうです。ここまでも当時であればおかしな話ではないんですが、少し雲行きが怪しくなってきます。

白川さんは第2子出産の時も、ぎりぎりまで働いていた。大きな案件を抱えていたので休みたくなかった。妊娠8カ月まで誰にも告げず、予定日の1カ月前に破水したので、産休に入ったのは結局出産の前日だった。妊娠を職場で伏せていたのは、プライベートなことだと思っていたから。

その上でのこのエピソードです。妊娠したことを会社に告げるかどうかは本人の意思でしょうが、破水するまで働く。一ヶ月前だから早産ギリギリのラインですね。

2回の産休を取ったことも影響してか、昇進・昇格で同期に遅れた。それでも白川さんは「子育てを理由に、不満をいうべきではない」と思っていた。30代のころは「誰もが納得するような仕事の成果を出していなかった」と思っていた。

そこまでしたのに昇進・昇格が遅れたそうです。ご本人からすると自分に成果が出せなかったということですが。

職場ではやるべきことをやるだけ。「子どもがいるからできない…」とか「子どもがいてもやる…」といった基準は存在しない。相変わらず「理不尽だな」、「こんな慣習がまだ残っているのか」と思うこともあるが、周囲のせいにしたところで、問題は解決しない。

ご本人の意識としては今でも会社に理不尽なところを感じたり、子育てをする上では問題のある慣習が残っているようだけれど、それは会社のせいにはしない。

大和のある30代の女子社員が語る。「役員に選ばれる女性は、ごく一部のスーパーウーマンなんだと思っていた。白川さんのように、子育てをしながら、普通に頑張っている人でも役員になれるんだと思うと、励みになる」。肩肘張って頑張っているわけではない。仕事も子育ても、あるがまま自然体。それが白川さんの人生観だ。

このような方を見て、大和証券の30代の女性社員は、"子育てをしながら、普通に頑張っている人"と評して、記事は終わります。なお、記事には、子供の鼻のポリープの除去の手術は仕事があるから立ち会えなかったとか、子育てにもあまり関われなかったというエピソードも含まれています。

これを読んで、この方を「普通」と思える人はどれくらいいるでしょうね。

 

日経DUALのメッセージは何か

インタビューに応えた白川さんは、大和証券の宣伝になる記事にも関わらず、一部会社に不利になるようなことも語られているので、本当にこれが自然体なんだと思います。白川さん自体が選んだ人生であり、特に法律に反しているわけでもなく、外野がとやかく言うものではない。

それよりも、この記事の構成がモヤモヤする要因ですよね。妊娠したことを伝えず破水してからようやく産休を取るようなエピソードを入れておいて、最後に、同じ大和証券の女性社員をして、"子育てをしながら、普通に頑張っている人"と語らせちゃっている。もちろん、この女性社員の本心なんでしょうが、こういう話を入れるか入れないかはこれを書いた日経新聞の方に何らかの意図があるわけですよね。

その意図としては、これを最後に入れることで、日経DUALとして、こういう白川さんのような出産・子育ての仕方が特別ではなく「普通」であるということをメッセージとして伝えたいと考えられます。

他にも、

これだけバリバリ働いてきた白川さんだけに、夫や子どもに対し「ゴメンね」と言いたくなるシーンもさぞ多かったろうと思ったら、「そういう感覚はまったくなかったなあ」と笑う。

こういうところからすると、バリバリ働いてきた女性は、夫や子供に対して謝らないといけないということを前提にしている。

白川さんの今から見て「普通」ではない出産事情の背景には、もちろん当時の社会や会社の問題があるにせよ、今の世の流れとしては、これをスタンダードにせず、「普通」に産休・育休を取れる環境を整備しようというのがあるわけですよね。それにも関わらず、こういうspecialなエピソードを使って、「こんな普通な人でも役員になれますよ!」と喧伝するのは、日経DUALというメディアが目指す方向性からするとどうなのか。

昔ながらの、子供を持つ親にとって働きにくい職場環境で頑張るのが正しいことで、「不自然」な状態を変える必要はないという前提を維持しているように取れますね。

 

締め

ということで、記事の冒頭に戻りまして、

女性が活躍する会社として知られる大和証券に、また1人女性役員が誕生した。広報部長の白川香名さん(48)だ。同社として6人目の女性役員だが、白川さんの場合、これまでとちょっと違う。子育てをしながら役員になった初のケースだ。同社の鈴木茂晴会長は「これで女性活躍のステージがまた1つ上がった」と語る。

この記事を読んで、「これで女性活躍のハードルがまた1つ上がった」と思ったのは自分だけでしょうか。(小町話法)

以上本題です。以下、余談です。

 

 

 

余談

なお、あまり言及している人は見当たりませんでしたけど、

夫は専業主婦の母親に手塩に掛けて育てられた。姑からみた今の白川さんの母親ぶりは、宇宙人を見るような思いだろう。嫁と姑の関係は「ご想像の通りです」と苦笑するが、白川さんは悪びれない。

自分はこちらが気になります。"白川さんは悪びれない"とすると、姑との関係が悪いのは悪びれないといけないことなんでしょうか。ああ、白川さんの嫌な姑エピソードを聞きたい!あとは、PTA役員をどう切り抜けたのかも聞きたい!!

こういう燃える話というのは、えてして期待値とのギャップから起こるもので、これがサイゾーあたりだったらまだスルーされていると思います。日経DUALには姑特集とPTA特集を組んでいただくことを切に願います。