斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

自分を守るために役割・職務内容を明確にする

『やさしい経済学』は日経新聞の中で私が好きな連載記事の一つです。

 

昨日の『やさしい経済学』では日本の長時間労働の背景にある、職務内容の曖昧さが触れられていました。

(やさしい経済学)日本の長時間労働を考える(5)内部で人材調整、社員に負担 一橋大学教授 小野浩 :日本経済新聞

日本企業は内部で人材を育成・調達する内部労働市場型の組織であり、人材ニーズはできる限り内部で解決することを前提としています。社内で多くの仕事をこなせるように社員は定期的なジョブローテーションを経験します。このため特定分野のスペシャリストよりも、どんな仕事にも対応できるゼネラリストの需要が高まります。

自分の責任範囲と専門領域が曖昧で、かつ集団意識と上下関係が強く働く組織の中では、社命を受ければ自分の仕事と直接関係なくても断りづらくなります。

このような日本企業での独特の仕事のスタイルを濱口桂一郎さんはメンバーシップ型正社員と呼び。日本以外の国でのジョブ・ディスクリプション(職務内容を規定したもの)が明確にある働き方をジョブ型としています。

「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム | nippon.com

メンバーシップ型正社員には職務限定の権利もなければ、時間外労働拒否の権利もなく、遠距離配置転換拒否の権利もない(いずれも最高裁判所の判例)。

その代わりに日本型正社員が獲得したのは、欧米であれば最も正当な解雇理由である整理解雇への制約である。

メンバーシップ型の働き方にはここで挙げられたように日本の働きにくさの背景にあるのは間違いありませんが、ただ悪いところがあるわけではなく、解雇がしにくく、年功序列型の賃金体系があれば、安心して一つの会社で長期間働けるとも考えられます。

しかし、今の日本では派遣社員に代表される非正規社員の割合が増加しています。非正規社員は簡単に解雇できます。しかも、仕事内容は正社員と同じでも給与水準は低い。そして、正社員であっても退職勧奨という名の実質的な強制解雇があったり、年功序列型の賃金体系も崩れつつあります。

誰の意思が働いているか分かりませんが(SF的には誰の意思も働いていないかもしれない)、会社にとってメンバーシップ型の都合のいいところだけ採用し、不都合なところは不都合のままにされているのが現状です。

 

日本では、役割が曖昧なままに放り込まれることが、仕事に限らず多々あります。

例えば、PTAの役員。何をするかの説明は事前になく、役割も曖昧で、長時間の拘束が当たり前になっている。

成り手のいなかったPTA本部役員に立候補したのが運の尽き。ホステス扱いされ、派閥争いに巻き込まれる - 斗比主閲子の姑日記

例えば、家事・育児。明確な分担がされることは少なく、丸投げされることが多い。

仕事でするように家事・育児を分担すること - 斗比主閲子の姑日記

※上で紹介した記事は3年前のもので、当時は私はメンバーシップ型とジョブ型の違いを意識していませんでした。私自身がジョブ型で働いていたために、ジョブ型の仕事でするように家事・育児を分担することを考えていました。

 

ジョブ型のように、作業を細分化し、個々人の役割を明確にしてその作業に当たるのは、その作業に関わる人の代替可能性を高めます。その意味で「私が死んでも代わりはいるもの」という面はありますが、引き継ぎは容易になります。

メンバーシップ型でもジョブ型でも一長一短はありますが、日本は過度にメンバーシップ型に寄っている印象があります。職場や大きな組織ではなかなか難しいものの、社会の最小単位である家庭では、個人の役割を明確に定義することを意識してもいいのではないかと私は考えています。

自分がこの範囲しかやらなくていいというのは気が楽なものです。

 

働く女子の運命 (文春新書)

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※濱口桂一郎さんの本を読むならここからがお勧め。