斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

事実婚だと不妊治療が受けられない?補助金は? ~民法婚外子差別解消後の動き~

今月、こんな報道がありました。

体外受精、事実婚カップルに拡大…日産婦方針 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 

簡単にまとめると、

  • 昨年9月に遺産相続における婚外子差別が法の下の平等に反すると最高裁が判断
  • 昨年12月に当該差別を解消するよう民法改正案が成立
  • これを受け、日本産科婦人科学会(日産婦)が、これまで不妊治療は婚姻をしている夫婦に限るとしていた会告(自主的ルール)を変更する?

というものです。

 

以前、こんなQ&Aを作成していましたので、婚外子、事実婚関連で、どんな動きがあったか追っていました。

元トピ職人の解説など • [コラム]「婚外子」相続差別違憲判断について小町脳的Q&A

 

日産婦がこんなルールを作っていたことをこれまで知らなかったので、せっかくですので、この機会に、事実婚と不妊治療について少し調べみたのがこの記事となります。

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不妊に悩む方への特定治療支援事業の概要|厚生労働省より

 

事実婚では不妊治療を受けられない?これまでの日産婦のルール

日産婦が公表している、その自主ルールの該当部分はこちらです。

体外受精・胚移植に関する見解

4. 被実施者は婚姻しており,挙児を強く希望する夫婦で,心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする.

婚姻しておりという表現ですから、普通に読めば法律婚ですね。挙児(きょじ)とは、子供を持つこと。法律婚をしている夫婦が、子供を持つことを希望するというのが不妊治療を受ける上での条件として、自主ルールで定められています。

 

この自主ルールでは、2006年に、婚姻関係を証明するための戸籍抄本の提出が必要とする文言を外されているため、すでにその時点で事実婚を容認していたとも捉えられていたそうです。

体外受精、事実婚も追認へ 学会、婚外子差別撤廃受け:朝日新聞デジタル

事実婚での体外受精について、日産婦は2006年の指針改定で、婚姻関係を確認する戸籍抄本の提出などの条件をなくし、事実上、容認していた。ただ、民法による婚外子の差別などが残るため「推奨はできない」との理由から、指針には「婚姻」の文言を残していた。このため、会員の医師から「わかりにくい」との声が出ていた。

(ここで書かれている、相続差別があるから不妊治療できないというのは、差別があるから差別をしていいみたいな話に聞こえちゃいますね。)

 

2000年段階では明確に事実婚は対象ではないとしていたので、徐々に認められるようになったのは、民法の相続差別違憲判断と同様の流れのように見えます。

倫理審議会答申書 平成13年2月23日 日本産科婦人科学会倫理委員会倫理審議会

3、事実婚例における生殖補助医療に対する見解 

事実婚例を検討の対象にすることはできない。

  カップルには法律婚、事実婚、非婚というレベルがある。わが国においては、法律婚以外のカップルに対し、社会的に事実上の夫婦と判断する認定機関および方法が整備されていないのが現状である。さらに現行の民法において、事実婚の出生児が相続権等、法的に不利になっていることを考慮すれば、本審議会としては、医学的には区別すべきではないが、事実婚例を法律上の夫婦と同様に検討対象とすることはできない。

 

元々、自主ルールですから、日産婦としては厳守を求めていたものの、それに沿わずに、事実婚の夫婦への不妊治療をしていた病院・クリニックはありました。

未入籍(事実婚)の方へ|京野アートクリニック 仙台市

未入籍であっても、それぞれが未婚であり、他に法律上の配偶者がいない場合は、現住所などが異なっても全ての検査・検診などは通常通り行います。

今回のことで、これまで自主ルールに従っていた病院・クリニックが治療ができるようになるということですね。もちろん、反対のことも言えて、自主ルールだから従わない=事実婚の不妊治療を認めない病院もありうるわけで、患者としては個別に確認するのは変わらずだと思いますが。

 

変更タイミングは、早ければ4月の臨時総会か、もしくは6月の定時総会のようです。どう変わるかは継続ウォッチ対象です。

 

不妊治療の費用補助は認められるようにならない?

不妊治療では、特定不妊治療で、対象者に該当すれば、費用扶助を受けられることになっているのはご存知かと思います。詳しくは、下記ご覧になって下さい。

不妊に悩む方への特定治療支援事業の概要|厚生労働省

対象者

 特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された法律上の婚姻をしている夫婦

 

対象となる治療

 体外受精及び顕微授精(以下「特定不妊治療」といいます)

 

給付の内容

1回の治療につき15万円まで(凍結胚移植(採卵を伴わないもの)等については7.5万円まで)、1年度目は年3回まで、2年度目以降年2回を限度に通算5年、通算10回を超えない。

 

所得制限

730万円(夫婦合算の所得ベース)

ただ、対象者は、"法律上の婚姻をしている夫婦"で、事実婚は該当者になっていません。(また、730万円の所得制限もあり、我が家のように世帯年収が2千万円程度だと受けられません。)

 

体外受精は30万円~40万円で、顕微受精で+5万円ぐらいですから、1回あたり15万円の補助は大きい。(できれば、健康保険の対象となるのが不妊治療中のご家庭の希望だと思いますが。)

 

なお、人工授精と体外受精と顕微受精は行っている治療が異なりますので、詳しくはこちらを。授精と受精という字の違いもあるんですよね。

人工授精と体外受精、顕微授精の違い

 

民法の婚外子の相続差別が解消され、続いて、日産婦で不妊治療が正式に認められるようになったとして、事実婚夫婦への不妊治療の費用補助はどうなるのでしょうか。

 

当然この勢いで費用補助も認められそうですが、この点については、各報道機関が厚生労働省に確認している内容は、若干ニュアンスが異なって報道されています。 

体外受精、事実婚も追認へ 学会、婚外子差別撤廃受け:朝日新聞デジタル

ただ指針で事実婚夫婦の体外受精が認められても、国の不妊治療費補助は当面、受けられない見通しだ。厚生労働省は「事実婚への補助は検討していない。検討するなら専門家による議論が必要」としている。

朝日は不透明ですし、

体外受精:事実婚も容認 日本産科婦人科学会が方針転換 - 毎日新聞

また、厚生労働省は、法律婚の夫婦だけが対象の体外受精に対する公費助成について、日産婦総会で会告の変更が決定された後、事実婚カップルも対象とすべきかどうか、国の実施要綱の見直しを検討する。

毎日はポジティブです。

 

厚生労働省が歯切れが悪いのは、恐らく、費用補助についての昨年夏の見直し案が関係すると思われます。

「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」報告書について |報道発表資料|厚生労働省

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対象年齢を限定し、通算回数も減らしていますので、年間回数及び通算期間を減らしたとしても、費用補助のトータル金額は抑える方向と見られます。(費用の金額が大きくなれば予算が取りにくくなるということから、致し方ない措置なのかもしれませんが。)

 

昨年夏に、この補助制度ができて以来9年ぶりに協議して、見直し案を決めたばかり。事実婚も認めることにするには、再度の検討会での協議が必要になるでしょうから、すぐに事実婚の夫婦でも補助金が認められるようになるとは言いにくそうです。

 

こちらも、日産婦の自主ルール見直し後から継続ウォッチ対象ですね。

 

自治体によって費用補助を認めていることも?

厚生労働省は、補助制度を上記のように定めていますが、自治体によっては、多少異なる運用をしていたり、追加で費用補助をしていることもあります。

例えば、横浜市は、7.5万円制限を行わなかったり、

横浜市 こども青少年局 こども家庭課 横浜市特定不妊治療費助成

《大切なお知らせ》 

 平成25年度から、治療方法「C」及び「F」に対する助成上限額が、国では75,000円に変更されましたが、横浜市では制度改正を行いません。平成26年3月31日までに申請書を提出し受理された場合は、1回当りの助成上限額は150,000円のままです。

 

例えば京都府では、医療保険の対象となる不妊治療については、事実婚でも助成しています。

京都府 不妊治療サポートサイト きょうとmamanaro|不妊治療費助成制度

◎ 一般不妊治療への助成(不妊治療給付事業助成制度)

1助成対象となる治療

・排卵誘発剤の投与等医療保険が適用される不妊治療及び人工授精

2助成対象者

・京都府内の市町村(京都市を含む)に1年以上居住している夫婦(事実婚の方も対象。ただし、人工授精による治療を受けた場合に負担すべき医療費を申請される場合は婚姻の届出をしている夫妻)

・各種医療保険に加入されている方

 

最も、有名なのが、長野県塩尻市の例でしょうか。

塩尻市不妊治療(天使のゆりかご)支援事業について/塩尻市公式ホームページ

対象となる方

次の1、2、3のいずれにも該当する方

夫婦(届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある男女を含む)の双方又は一方が1年以上塩尻市内に住所を有していること

申請年度内に不妊治療を行っていること

医療保険各法に規定する被保険者等であること

(中略)

助成の対象になるもの

医師または薬剤師を有する医療機関・保険薬局が、不妊治療・不育治療として認める治療に支払った自己負担分が対象になります。

(加入している健康保険から助成がある場合は、その額を対象から差し引きます。)

不妊治療と認められれば、事実婚でも、自己負担分の全額を補助対象としています。

 

 

塩尻市のケースは本当に希ですが(塩尻市以外に事実婚への補助金を認めているケースが他にあれば教えて下さい。)、小中学生の自己負担額が自治体によって異なるように、自治体ごとで不妊治療の別途補助は検討できるようです。

 

締め

事実婚での不妊治療については自主ルールが変わることで、徐々に受ける病院・クリニックが増えていきそうです。一方、補助金については現時点では助成はなく、今後の変更は未定です。

国を動かすのは簡単なことではありませんが、自治体レベルでの予算取りについてはもう少し柔軟な議論が可能です。地元の市議会議員や県議会議員の勉強会に参加したり、投書するなどして働きかけをするのはありだと思います。

狙い目は、共産党・民主党系議員ですね。