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斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

日本小児歯科学会の『子ども虐待防止対応ガイドライン』での母親への目線が素晴らしい

先日、子どもたちが「虫歯になるとどうなるのー」「動画で見たい見たい!」と言ってきました。

 

事前に「見ると怖いかもよ~」と伝えても「それでも見たい!」と言うので、Youtubeで虫歯治療の動画を検索して一緒に見てみました。子どもたちは特に衝撃を受けているわけでもなく、動画を見ながら「あー、茶色くなっちゃってるのが虫歯なんだ」「虫歯になると中を削って新しい歯にするんだねー」と、微妙に間違っている反応を示していたので、都度補足を加えておきました。

 

結局何本か動画を見たのですが、その中で私にとって強烈に記憶に残ったのが、乳幼児の虫歯治療の動画でした。前歯が上下ともに真っ黒で、奥歯も虫歯になっているというもの。それを見ていて思ったのが、「もしかして、この子は親からネグレクトされていた可能性はないか」「虫歯の本数と虐待には相関があるんじゃないか」ということです。

 

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※ここから内容が少し重たくなるので箸休めにイラストやさんの可愛い絵を挿入。

 

その虫歯の子がネグレクトされていたかどうかは動画からでは調べようがないものの、虐待児童が虫歯数が多いという調査は複数見つかりました。一番有名なのはこの東京都の調査です。

21.歯科医が見た児童虐待(上)虫歯数は一般の3倍 | 横浜市歯科医師会|横浜市 歯科医師会 歯医者 歯科

東京都では二○○二年に都歯科医師会の協力で被虐待児童の口腔内検診を行いました。ゼロ歳から十二歳までの百七十人の被虐待児童と一般の児童を比べたところ、一人平均の虫歯の数は三倍以上で、治療率は二~三割以下という結果でした。

この結果から、虫歯が多く歯科治療もされていない子どもは、虐待されている可能性があることが分かりました。

他にも複数の自治体で調査が行われており、虐待と虫歯の本数の関係は確認されているようです。虫歯が多くて親から虐待されるというのはあまり考えにくいので、虐待されているから、親が注目していないから、虫歯が放置されるという因果関係ですかね。虫歯が多いだけではなく、治療を受けていないというのもポイントでしょうから、動画で見た子は少なくとも治療は受けているのだから大丈夫だったのかなと考えたりしました。

 

それで、こういった調査があったことを受け、小児科医向けのガイドラインやマニュアルが学会や各自治体から発行されたようです。いくつかそういったガイドラインを読んでいて、なるほどこんな取り組みが行われていたのかと感心していたところ、日本小児歯科学会の『子ども虐待防止対応ガイドライン』にこんなことが書かれているのを見つけました。

1)母親への対応のチェック

子ども虐待等の対応の最終目標が子育て支援であるとすれば、その支援者である私たち歯科医師が母親への対応が不十分では支援者にはなれません。

母親への固定概念としては

* 母親というものは、子供を愛情豊かに養育できるはずのものである。
* 母親なのだから、子どもがかわいく思えないはずがない。
* 母親なのだから、(一人で)子育てができるはずである。
* 産んだのだから、育てるのが当たり前(育てられないのならなぜ産んだ
のだ!)。
* 子育てが大変なのは当たり前、母親なのだから耐えて頑張りなさい。
* 育てられないなどと甘えたことを言うな、それでも母親か!

などが常識であるという認識を言います。

以上のような認識を少しでも持っているなら、先ずその観念から解き離れることから始めましょう。

(5ページ目より抜粋)

これ、いいですよね。

 

この文章は、こういう固定観念は支援者として適切ではないという話だけに見えて、他にも母親を歯科から遠ざけないようにする点も考慮していると考えられます。

 

母親が虫歯になっている子どもを歯科に連れて行ったときに、歯科医から「虫歯になっているなんて親失格」「子どもが可哀想だと思わないのか」と言われたら、どうなるでしょうか。相当ショックを受けて、そんなこと言われるぐらいなら、子どもを歯科に連れて行こうと思わなくなる。そうすると、結局虫歯が放置されてしまうし、母親が外部と接点を持つ機会も失われてしまいます。

 

何も虐待が起きている場合に限らず、母親に医師が『親失格の烙印』を押すのはデメリットばかりですよね。そもそもなぜ子育てを母親のみの責任にするのかという観点でもそう。実は母親も虐待被害者の可能性があり、それを発見できるかもしれないのに、芽を潰してしまうことになりかねない。

 

もちろん、親が子どもを病院に連れていくことを医師が褒めたら、それはそれで悪い結果に繋がりかねないですけどね。「子どもを病院に連れて行くと先生に褒められる!何か嬉しい!!」って、医師に褒められるために子どもを病気やケガさせる親が誕生する状況を作り出しかねないですから。これはこれで恐ろしい。

 

実際は、歯科医経由で虐待が通告される件数はそれほど多くはないようなんですが(躊躇があるらしい)、少なくとも日本小児歯科学会のこのマニュアルでの考え方は、広く医師の先生方に浸透してくれるといいなと思った次第です。