現時点では仲直りできていないんですけどね。
概要
中村さんと日亜化学との過去のいきさつについては404特許での訴訟含めて、あまりよい関係ではないということは皆さんご存じだと思います。訴訟とは、中村さんが日亜化学の従業員だったころに職務発明した青色LEDに関する特許について、特許を受ける権利の帰属等を争ったものですね。
今回中村さんの方から11/3にマスコミ経由で関係改善をしたいと文化勲章の受勲後の記者会見で話があり、
それに対し日亜化学から11/4に「お祈り」の回答がありました。
日亜化学からの回答
日亜化学からの回答は、
中村教授の「感謝で十分」、社長との面会は断る : 科学 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
中村教授は、すでに15年前に弊社を退職された方で、弊社は中村教授に何かをお願いするような考えは持っておりません。また、同教授は今回の受賞・受章について、弊社歴代社長と弊社に対する深い感謝を公の場で述べておられ、弊社といたしましては、それで十分と存じております。
中村教授が、貴重な時間を弊社への挨拶などに費やすことなく、今回の賞・章に恥じないよう専心、研究に打ち込まれ、物理学に大きく貢献する成果を生みだされるようお祈りしております。
というものです。これを単体で見れば、ノーベル賞受賞者で文化勲章の受勲者が会いたいといっているものを、会う気はないとにべなく断っているわけですから、大人げない印象を受けます。
物理学に大きく貢献する成果を生みだされるよう
というのはまだ成果を生み出していないと言っているように見えますし、
お祈りしております
締めのこの言葉も就職活動でのお断りメールみたいで慇懃無礼な感じがしますよね。
でも、その前の中村さんの記者会見での関係改善をしたいという日亜化学へのラブコールも、これはこれで相当凄いものでした。
中村修二教授のラブコール
まず最初は日亜化学への感謝から入っています。ここはまだ平穏。
今回の受章もノーベル賞も、日亜化学工業(徳島県阿南市)の貢献があると思います。日亜化学は現在でもLEDの世界市場シェア30%、世界一の企業です。1993年に高輝度の青色LEDを開発してから、ずっとダントツ一番です。現在の小川英治社長がリーダーシップを取り、日亜化学が世界のリーダーとなって青色LEDの応用を進め、今回のノーベル賞に至ったと思います。私は小川社長に非常に感謝していますし、もちろん、日亜化学の全社員、私の当時の部下6人にも非常に感謝しています。
この部分について、
弊社歴代社長と弊社に対する深い感謝を公の場で述べておられ
という日亜化学の回答に繋がるわけですね。
それで、ここからが凄いんですが、
と言いますのは、皆さんご存じのように、日米両国での裁判のために、私は日亜化学と関係が悪いんです。ノーベル賞と文化勲章を機にぜひ関係改善を図りたい。(改善のために)ぜひ皆さん(報道各社)に手伝ってほしいんです。
仲が悪いことをはっきりと認めて、報道期間に仲介を頼む。
それで、こういう記者会見をすることについては、
−−関係改善を呼びかける会見を開くことは、日亜化学には伝えているのでしょうか。寄付をするときは徳島大に行く予定ですか。
◆日亜化学にはまったく言っていません。なかなか接触が取れませんから。極端に言うと門前払いのような形ですから。
伝えてなくて、門前払いされていると言っちゃう。自分には非が無くて、相手が門戸を開かないということですよね。仮にそれが事実だとしても、日亜化学にこの会見の内容を事前に伝えずに、相手に非があるということを公の場で言っちゃったら、それでも日亜化学が門戸を開くということは、日亜化学としては非が自分の方にあったということを認めちゃうように見えてしまう。こういうことを言われると会いづらくなりますよね。
続きの、
徳島にも行きたいんですけど、現状では行けないんですね。日亜化学は四国最大の企業なんです。徳島で10メートル歩いたら、日亜化学の関係者に会うというところですから、関係をよくしないと現地には行けない。そういう意味で関係を早く改善したいんです。徳島大は私の母校で、学生や先生が来てくれと言ってくれるが、日亜化学との関係をよくしないことには行きづらい。
これもそうで、要は日亜化学のせいで徳島で出歩くこともできないと言っています。確かに日亜化学は徳島最大の企業であり(四国最大ではありません)、関係者に会うことはありそうですけど、これだとまるで日亜化学が会社として嫌がらせをしているようにも読めちゃう。先ほどの話と同じで、仮にそれが事実でも、日亜化学に非があるという話ですから、日亜化学としてはこんなことを公衆の面前で言われたら快く思えません。
他にも、
−−小川社長に会うために徳島に行くことも考えていますか。
◆そういう目的で、今回皆さん(報道各社)にお会いしています。いつでも喜んで会いに行きます。
こういう"喜んで"というのは自分に非がないアピールみたいにも見えます。相手には非があるけど、こちらは会ってあげるよというように読み取れる。
以降、繰り返しで、
−−どなたかのアドバイスがあったのでしょうか。
◆前から日亜化学を定年退職した方や多田先生もよく言っていました。多田先生は「お前は日亜化学と早く仲直りせんとあかん」と。以前から仲直りはしたいと思っていました。
私の古里は二つです。愛媛には高校卒業まで18年間いましたし、徳島にも26年間いて、両方が古里です。愛媛とは何も問題ないが、日亜化学との関係が悪くて徳島には行けない状態でした。第二の古里に公に行きたいものですから。
日亜化学との関係で古里に戻れないとし、
−−ノーベル賞が決まった直後に、原動力は怒りだと。今はどんなことに怒りを感じていますか。
◆日亜化学との関係が良くなれば怒りはなくなります。
わざわざ言わなくてもいいのに、まだ日亜化学には怒っていると言い、
−−日亜化学を許すというのはどうしてですか。
◆人生短いですからね。けんかしたまま死にたくない。どっちが悪いとかどっちがいいとか言うと、エンドレスの議論になる。そういう細かいことは言わずに、お互いに誤解があったから、過去のことは忘れようと。将来だけを見ていこうと。私ももう60歳ですから、死ぬときはみんな仲良く、けんかはなしでやりたいですね。
自分がけんかしたまま死にたくないから許すとし、
−−中村さんから小川社長に謝罪するわけではないと。
◆それはないですよ。だって、悪いことは一切していないわけですから。
謝罪はしないとし、
−−日亜化学側に手紙などを送る予定は。
◆それはないですね。
他の手段で接触することはないとし、
−−まずは会見を開いて、反応を待つと。
◆それが残っている唯一の方法だと思います。よろしくご協力をお願いします。
マスコミ経由以外ではやり取りをしない(できない)と言い切っちゃう。
こういう流れで会見して、日亜化学からいい回答が得られるのはかなり厳しいですよね。中村さんの会見での内容は、日亜化学を追い詰めるばかりで、逃げ場所を用意していない。原稿は誰かが用意しているかもしれませんが、これは関係を更に悪化させるよう意図していたんじゃないかと疑ってしまいます。
しかも、
−−文化勲章親授式で天野浩・名古屋大教授とは言葉を交わしましたか。
◆天野先生が風邪をひいていたので、「なんで風邪ひいた?」って言ったら、(天野氏が)「毎日マスコミがずっと来て、休みが取れなくて風邪をひいた」と言うから、「マスコミはマスゴミだから、適当にあしらわないと風邪ひくわ」って言ってね。
関係改善を仲介する報道機関については、マスゴミと称し、適当にあしらったほうがいいと(間接的に)言っちゃう。これを聞いた報道機関はどう思うでしょうね。
締め
自分に非が無いとするのは別にいいし、相手に非があると自分で信じるのはいいけど、それを公衆の面前でやってしまうと、相手が認めようにも認めにくいんですよね。
この後、中村さんの方でどういう反応をするかで、会見の真意も見えてくるかもしれません。ただ、たぶん本気で思ったことを口に出しているんじゃないかと思われますので、落としどころはなかなか見えないんじゃないでしょうか。
不毛なやり取りだと思いますけど、大人同士の秘めた思いが見え隠れしていて、個人的には見ていてとてもほっこりします。
追記
中村さんは諦めたようです。
中村氏、日亜の対応「残念」 首相・科技相と会談 :日本経済新聞
ノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は5日午前、かつての勤務先の日亜化学工業が、関係改善に向けた面会に応じないことについて「非常に残念だ。これから進展はない」と述べた。安倍晋三首相と首相官邸で会談した後、記者団の質問に答えた。
日亜化学の回答がつれないから仕方ないですけど、「これから進展はない」って言っちゃったら、中村さんからはもう落としどころは探るつもりはないというように読めちゃうんですけどね。
「ノーベル賞受賞の感動を共有したいという気持ちはある。これからも何らかの機会で接点を持つようにしたい」とポーズでも示したら仲介者が出てくる芽が残ると思います。