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斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

大人も楽しめる少年マンガ、田辺イエロウ『BIRDMEN』(バードメン)とシンママ

先日、テーブルの上に置いてたら子どもに読まれたマンガということで『聲の形』と『BIRDMEN』を紹介しました。この記事は『BIRDMEN』の方のレビューとなります。 

『BIRDMEN』は少年サンデーに連載されている、中学生が主人公の、いわゆる変身して特殊能力を発揮するタイプの少年マンガです。こう書くと、子ども向けの作品と捉えられるかもしれませんが、我が家では親のほうがハマっています。非常に面白い。

そういった大人も楽しめる要素をこのレビューでは紹介できればと考えています。 

BIRDMEN(1) (少年サンデーコミックス)

BIRDMEN(1) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 田辺イエロウ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/06/19
  • メディア: Kindle版
 

 

少年マンガらしからぬ"暗さ"

作者の田辺イエロウさんの前回の長編作品は、同じく少年サンデーで掲載されていた『結界師』となります。自分は『結界師』のほうも読んでいて、こちらは作品のベースカラーが黒でした。主人公の墨村良守は名前に墨が入り、衣装は黒で、敵と戦うのは夜だし、とにかく全体的に絵が暗い。話自体にも妖怪人間ベムのようなところがあったりしてかなり暗い。 

結界師(1) (少年サンデーコミックス)

結界師(1) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 田辺イエロウ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: Kindle版
 

こういう暗さが好きで『結界師』を読んでいたのですが、本作も同様の暗さがあります。

まず、主人公の名前が烏丸英二。主要登場人物の名前には鳥の名前が入っており、主人公の名前はカラスから。そして、変身して着る特殊なスーツの色も黒です。そして、主人公の性格はかなりネガティブ。脇のキャラクターを明るくして、あんまり暗くならないようにされてますけどね。

連続して黒という色を作品の基調にしているのは、田辺イエロウさんの拘りなのか、男の子は黒が好きというマーケティングからなのか、作品の中身もスッキリ・ハッキリする白さという感じではないので、合っているように思います。

この辺の暗い雰囲気は、1話と2話が公開されていますので、こちらをご覧になるとよく分かるはずです。一話の1ページ目でこのコマが入るぐらいですから。

BIRDMEN

※画像は『BIDRMEN』1巻から。空を飛ぶ話なんですけどね。自分で飛びたいと思ったことはなかった。

※このアイコンの少年が主人公。冴えないコナン。

少年マンガだと、序盤はもう少しキャッチーな展開になると思うんですけどね。2話まで、空を飛ぶことがない、さっぱりしない日常回が続きます。

 

強い敵と戦うのが目的ではない

少年マンガで特殊能力を発揮するみたいな話だと、えてして強い敵と戦うことが目的となりますが、本作はそうではありません。敵は一応出てくるものの、「え、なにこれ、敵?」みたいな感じで、かなり手探りがありつつ進みます。

まず、この特殊能力を獲得することになったのは、本人たちの意志によるものではありません。加えて、この能力はある人物からたまたま授けられたもので、こういうところはパーマンっぽいですけど、能力を持ったからといって何かをしなければならないという使命は、誰からも与えられません。能力を授けた人物もこの能力がどうして存在しているのか知りません!

でも、こんな能力持って、それをよく分かっていないんじゃまずいんじゃないかって、能力を持っちゃった主人公を含めた中学生が集まって、放課後に能力開発のサークル活動をし始めます。この、能力で何ができるかを一つ一つ探っていくプロセスにかなり時間が割かれます。ちょっと賢い普通の中学生が、中学生っぽい思考で色々頑張ってみる。でも、やっぱり限界があるから、大人に頼ろうとする。

こんな感じで、話に無理やりな要素が少ないんですよね。どうでもいい存在を登場させて、無理にストーリーを展開させようとしない。地味に地味に、この特殊能力の中身を探っていくプロセスが楽しい。能力とストーリーが重なって、ああ、このためにこの能力が必要だったのかと能力の存在が伏線のようになる。

主人公は比較的物分かりがいいんですけど、周りの子が物分かりが悪いのもいい。

 

大人の弱さと大人のしっかりしたところ

自分が親世代なので、少年でも少女でも子ども向けのマンガを読んでいて気になるのは、親世代の大人がどのように描かれているかです。大人がコテコテで、わけもなくただ叱ってばかりだとか、とにかく何でも知っているとか、ステレオタイプな形で登場する作品の場合は楽しめません。人間、0か1ではない。この辺は『子どもは分かってくれない』のレビューでも触れました。  

本作では、主人公のお母さんはフルタイムで働くワーキングマザーです。夫とは(主人公の言葉を借りれば母親が原因で)別れ(別居ではなさそう)、両親に頼らず一人で余裕なく頑張って子育をし、シングルだからという理由で子どもが悪く育ったと後ろ指を指されるのを嫌い、子どもの素行に神経質になる。主人公は思春期のイライラを抱えつつ、母親があまり強くないことは分かっているけれど、自分を顧みない母親の発言にモヤモヤし、強い言葉であたってしまう。

BIRDMEN

※画像は『BIRDMEN』1巻から。この前後の会話が、いい。

母親の言葉をそれだけ見れば、典型的なガミガミ母さんですが、どうしてガミガミするのかが伝わってくる描かれ方です。上で引用したページの左のコマのお母さんの顔の口元の歪みなんか見たら分かる通り、子どもの直球の非難に親がちゃんと苦しむ。子どもは子どもで言ってしまった自分に自己嫌悪する。分かっていても優しくなれない、すれ違いがある。

母親の目が描かれていないのは、主人公にとって母親の言っていることが理解できないということを表現している、漫画描写ですね。目のない人間は不気味な存在に見えるものです。

巻が進むと、主人公も色々あって母親とのコミュニケーションの形が変わっていって、親子関係にも影響が出てきます。たぶん、どこかで母親の目は描かれることになると踏んでいるんですけどね。こういう親子関係の変化も楽しみで読んでいます。

 

そして、もう一人、何でも知っていそうで、知っていることに限界がある大人が登場します。最初は、登場人物たちがその大人を拉致して脅迫して特殊能力の実態について探るよう無理やり協力させようとします。そうしたら、その状況で、その大人が「こんなやり方で協力しようと思うか」みたいな普通の返しをして、言われた主人公含めた子どもたちは「それもそうか」と、ちゃんとした場所で落ち着いて話をすることになる。

こういうところ一つとっても丁寧なんですよね。たまたま、隣に住んでいたのが天才科学者だったなんて話にはしない。大人が大人の思考で関わる。

 

締め

こんなところです。シンプルなバトルものの少年マンガではないところが上手く伝わってくれるといいのですが。

惜しむらくは、週刊連載ではなく月一連載になっているため、普通週刊誌だと1年に5巻は新刊が発行されるのに、もうすぐ連載期間が2年になるのにまだ5巻までしか出ていません。今ある伏線を全て綺麗に回収することを考えれば、できれば15巻ぐらいまでは続いてほしいのですが、このペースだと恐らくそれまでに4年ぐらい必要になります。

作者の田辺イエロウさんが、連載ペースを遅らせている理由は色々勝手に推測することはできるので、自分は気長に続きが描かれるのを待ちます。推測が合っているなら、あと1年ぐらいしたら週刊連載に戻るはず。

ただ、長くなったとしても、少年サンデーは、連載を途中で酷い形で切ることはしない印象があります。一度連載させた漫画家さんには次の作品も連載させてあげて、しかも連載作を最後まで看取ってくれるイメージ。今、再アニメ化されている藤田和日郎さんの『うしおととら』にしても最初からは想像がつかない風呂敷を広げたのをちゃんと畳むまで掲載されていましたし、次の連載作の『からくりサーカス』もそうでした。

怖いのは、サンデー自体の発行部数が落ちていることですね。そろそろ雑誌としての採算が成立しなくなりそう。

雑誌名出版社名印刷証明付き発行部数
週刊少年マガジン 講談社 1,156,059
週刊少年ジャンプ 集英社 2,422,500
週刊少年サンデー 小学館 393,417
コロコロコミック 小学館 1,050,000

※データは一般社団法人 日本雑誌協会 - 印刷部数公表から(時点は2015年第一四半期)

少年サンデーは『究極超人あ〜る』で好きになった、好きな雑誌の一つなので、ぜひ編集部の方々には引き続き頑張っていただき、『BIRDMEN』も無事完結していただくことを一ファンとして願うばかりです。 

BIRDMEN(1) (少年サンデーコミックス)

BIRDMEN(1) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 田辺イエロウ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/06/19
  • メディア: Kindle版
 

以上、本題です。以下、余談です。

 

 

 

余談

冒頭に触れた、子どもに読まれたと書いた記事はこちらとなります。 

この記事の最後に、

ちなみに、どちらも少年誌に掲載されており、この漫画の作者のお二方にはある共通点があります。

と書きました。『聲の形』は少年マガジン連載です。

聲の形(1)

聲の形(1)

  • 作者: 大今良時
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/01/17
  • メディア: Kindle版
 

次のリンク先で一話を試し読みできるのですが、これをご覧になると多くの人が心が痛み、続きを読むのが辛くなると思います。辛くて読めなかった人に、最後まで読む気が起きるように、今度レビューしますね。とてもよかった。

それで、共通点とは、作者さんが女性だということです。お二方とも男性っぽいペンネームですから、ぱっと見は分かりません。

主人公の親がシンママというのも作品の共通点としてありますね。そういえば、同じく、少年マガジンで被る時期に連載されていた、久保ミツロウさんの『アゲイン!!』も、主人公のお母さんはシンママでした。

アゲイン!!(1)

アゲイン!!(1)

  • 作者: 久保ミツロウ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/12/07
  • メディア: Kindle版
 

主人公たちの年齢(中学生~高校生)ぐらいだと、シンママが統計上増え始めた時期と一致しますし、現実が反映されていっているということなんでしょうね。 

シングルマザー数

総務省統計研修所/様々な家族形態に関する研究分析『シングル・マザーの最近の状況』2010年から

しまじろうでも、お母さんがシンママのにゃっきいというキャラクターが登場しますし、夫婦が共働きだったりするの作品も見かけるようになりましたし、親視点で見て、フィクションの世界でも現実が考慮されていっていることをよく感じます。

 

関連記事

過去レビューしたマンガです。

この中では『おんなのいえ』は親がシンママ設定ですね。『海街ダイアリー』はかなり複雑な家庭。『逃げ恥』は本人たちが複雑な家庭。『コウノドリ』は患者さんが色々。『ちはやふる』『失恋ショコラティエ』は昔からある典型的な日本人世帯。

作品の細部は思い出せなくても、作品の登場人物の家族関係は頭に入っているので、やっぱりそういうところに興味があってマンガを読んでいるのだなとつくづく思います。