斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

医学部入試での女性・浪人への"一律の差別的取扱い"を認定した、聖マリアンナ医科大学の『第三者委員会調査報告書』は必読(ただし印刷・ダウンロード・テキスト選択すべて不可)

私はライフワークとして、不祥事に関わる第三者委員会の調査報告書を読んでいます。

今日紹介するのは、聖マリアンナ医科大学の『第三者委員会調査報告書』です。

Googleドライブに保存されており、印刷不可、ダウンロード不可、当然ながらテキスト選択不可となっています。テキスト選択不可は画像をPDF化していると良くありますけど、印刷不可、ダウンロード不可というのは、私の数少ない第三者報告書読みとしての経験では初めてです。聖マリアンナ医科大学として、よほど残ってほしくないということが想定されるため、これだけでとてもワクワクしました。

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※画像はwikipediaから。白い巨塔?

経緯

ちなみに、経緯を忘れている人もいるだろうから、なんで今さら聖マリアンナ医科大学でこんな報告書が出てきたかを説明します。もともとは、1年半前の2018年夏頃に東京医科大学で起きた医学部不正入試がきっかけです。

東京医科大学の内部調査報告書を読んでると、入試不正の再発防止は無理なんじゃないかと思ったけど・・・ - 斗比主閲子の姑日記

この後で、2018年の12月に文科省が、他の医大・医学部でも同様の入試での不正や女性・浪人への差別的な取り扱いをしている(可能性が高い)として、10校を名指ししました。

医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る調査について:文部科学省

神戸大、岩手医科大、順天堂大、昭和大、東京医科大、日本大、北里大、金沢医科大、福岡大の9校は実態を認めたのですが、唯一不正を認めなかったのが、可能性が高いとして名指しされていた聖マリアンナ医科大学でした。

その後、文科省とのすったもんだがあって、2019年の2月に、聖マリアンナ医科大学はようやく第三者委員会の設置をします。

柴山昌彦文部科学大臣記者会見録(平成31年3月1日):文部科学省

記者)聖マリアンナ医科大学が第三者委員会の設置を表明したんですけども、これについての御所見をお願いします。

大臣)聖マリアンナ医科大学に対しては、文部科学省より2月21日付けで文書を発出し、2月中に第三者委員会の設置を大学として意思決定すること等を求めていたところでありますけれども、昨日、同大学より第三者委員会を設置を決定したという旨の連絡をいただきました。同大学に対しては、速やかに、実際、第三者委員会を設置するとともに、その情報について、逐次文部科学省に報告するよう求めたところです。第三者委員会の設置に関する大学の対応がここまで遅れたことは残念ですけれども、受験生を含む社会からの信頼回復のためにも、公正中立な立場の第三者委員会において、文部科学省が不適切であると指摘した事項を含め、速やかに事実関係を明らかにしていただきたいと考えております。

それが、今年の1月になってようやく結果が公表されたというわけです。

あとで詳しく紹介しますけど、第三者委員会は聖マリアンナ医科大学の医学部入試で女性・浪人への一律の差別的取扱いがあったことを認めているものの、大学としては、

本学医学部入学試験に関する「第三者委員会」の調査報告書について|ニュース|聖マリアンナ医科大学

本学といたしましては、一律機械的に評価を行ったとは認識しておりませんが、かかる報告を踏まえ、意図的ではないにせよ、属性による評価の差異が生じ、一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があったとの認識に至りました。

このように一律に女性・浪人の差別はした認識はないし、意図的ではなかったと主張しています。

文科省から再三指摘されても否定し続け、今回、森・濱の弁護士を含む第三者委員会の調査報告書で差別の認定がされても認識はなかったとしているのだから、聖マリアンナ医科大学の理事の皆様は、この時代に珍しい一本芯の通った人たちなんだなと感心しました。

結論:大学は相変わらず否定してるけど、第三者委員会としては女性・浪人への差別があったことを認定

前段が長くなっちゃいましたが、ここからが本題です。まずは、『第三者委員会調査報告書』の結論のパートから。pdfの32ページ目です。 

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※赤線は筆者

志願票・調査書に基づいた採点で、浪人・女性での差別が認定されています。この、志願票・調査書は学科試験の1次のあとの、2次試験で利用されているものです。

志願票はこういうので、

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調査書はこういうのです。

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赤枠の部分が加点のポイントになっています。

で、この志願票・調査書での点数について、第三者委員会は分布を見てみたわけです。4年分の結果が次の通り。

平成27年

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男女差が綺麗に18点。そして、浪人だと見事に点数が減る。

平成28年

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男女差が綺麗に19点。そして、浪人だと見事に点数が減る。

平成29年

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男女差が綺麗に60点。そして、浪人だと見事に点数が減る。

平成30年

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男女差が綺麗に80点。そして、浪人だと見事に点数が減る。

多くの人がある程度決まった点数にいる中で、この4年で、見事に女性・浪人という属性があると点数が低いことが確認できます。

で、性別や浪人状況等の属性を除いて、匿名状態で当時の採点官に再度採点してみたら、実際の点数よりも女性・多浪生を高く採点していた。

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※赤線は筆者

ここまででも十分なような気がしますが、第三者委員会の執念みたいな感じで入試作業室のパソコンを調べてみたら、 上で紹介したような女性・浪人での点数の差をつけていたExcelファイルが発見されます。

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このファイルを第三者委員会が聖マリアンナ医科大学の関係者に見せても、出所含めて明確な説明はなかったそうです。かなり決定的な証拠ですね。プロパティに名前とか残ってたんじゃないだろうか。更新履歴ぐらい残っていそうなものだけど。

かなり端折りましたが、以上が入試差別の大まかな内容と、調査方法です。

私の印象:大学側がこのリアクションなら再発防止って不可能では?

第三者委員会の調査報告書では、調査結果以外に問題が起きた原因と再発防止策も提案しています。この辺は第三者委員会の基本線。

その一部を紹介すると、なぜこんなことが起きたかといえば、そもそも入試の議論が記録に残っていなかったり、チェック機能がなかったり、

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関係者へのヒアリングでは、「男性医師の確保は必要である」という意識があったということなどが考えられるそうです。

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後者の、大学病院での負荷の高い働き方では女性よりも男性が好ましい、だから男性に下駄を履かせるというのは以前からそこここで聞く話です。

で、この課題がある上での再発防止策を第三者委員会は提言しているわけですが、私の印象では再発防止は難しいんじゃないかと思いました。

というのも、第三者委員会の提言が実現が難しいものということではなく、大学側に再発防止をする気持ちがなさそうに見えるので。繰り返しだけど、報告書を読んでのアンサーがこれですからね。

本学といたしましては、一律機械的に評価を行ったとは認識しておりませんが、かかる報告を踏まえ、意図的ではないにせよ、属性による評価の差異が生じ、一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があったとの認識に至りました。

たぶん一律に差別したと認めちゃったら、試験代の返金だけではなく、再度の合否判定をしなくなるといけなくなるとか、文科省から指導が入るとか、そういうことを懸念しているんだと思います。それにしてもあんまりなリアクション。

結局、昨年度は男女差・浪人差はなかったようであるものの、

医学部入試、改善を確認 「不適切」事案の10校 :日本経済新聞

聖マリアンナ医科大学については今後も同じことをやらかさないか、個人的にチェックし続けるつもりです。

以上、聖マリアンナ医科大学の入試不正『第三者委員会調査報告書』を読んだ感想でした。

話は変わりますが、いじめでも第三者委員会は立ち上がるものの、調査報告書がなかなか公表されないんですよね。被害者家族の了解が得られていないということも考えられますが、同様の事例を回避するために価値があるので、積極的に公開されるといいと考えています。