斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

不自然な借用証を見た時にふと思い浮かぶ疑問に対する回答

誰もが思い浮かぶような質問に対する回答を用意してみました。

※ちなみに、この文章は指南を目的としたものではありませんし、金銭等を受け取ることも目的としていません。また、不自然な借用証を見た人の質問に一般論を回答したものであり、特定の借用証を想定してのものではありません。友人から質問される機会があり、私的に簡単にまとめたものです。誤りがあればご指摘頂けると助かります。

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Q.借用証を借り手が持っていることなんてありえるの?

A.借用証は1部だけ貸し手が持つことが多いですが、2部作り借り手も保管することはありえます。

また、弁済が済めば、通常貸し手は借り手に対して借用証を返還するものです。第三者に渡ると困ったことになるので。よほど信用できる相手でなければ破棄したと言われても素直に受け取れません。

ちなみに、民法第487条では、全額弁済した時に借り手は貸し手にその証書を返還請求できます。全額弁済しているのであれば、借り手が借用証を持っていることは全く不自然ではありません。

第487条

債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。

 

Q.私が見た借用証には印紙が貼ってなかった!無効では?

A.印紙が貼っていなくても、借用証は有効です。そもそも、口約束でも契約は有効に成立します。それを書面にしただけのことです。

でも、印紙を貼っていないのは、印紙税を納めていないことになるでしょうから、印紙税法第20条1項に該当し、元の印紙税代に加えて、過怠金として2倍を払わなければいけません。例えば、5千万円の借用証だと2万円の印紙税がかかりますから、6万円を払わないといけないわけですね。

第二十条  第八条第一項の規定により印紙税を納付すべき課税文書の作成者が同項の規定により納付すべき印紙税を当該課税文書の作成の時までに納付しなかつた場合には、当該印紙税の納税地の所轄税務署長は、当該課税文書の作成者から、当該納付しなかつた印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収する。

なお、悪質でないケースで自己申告すれば、10%の過怠金で済みます。これは20条2項。5千万円の借用証なら2万2千円を支払えばいい。

2  前項に規定する課税文書の作成者から当該課税文書に係る印紙税の納税地の所轄税務署長に対し、政令で定めるところにより、当該課税文書について印紙税を納付していない旨の申出があり、かつ、その申出が印紙税についての調査があつたことにより当該申出に係る課税文書について国税通則法第三十二条第一項 (賦課決定)の規定による前項の過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該課税文書に係る同項の過怠税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付しなかつた印紙税の額と当該印紙税の額に百分の十の割合を乗じて計算した金額との合計額に相当する金額とする。

ちなみに、ちなみに、印紙税法第21条以下には罰則が規定されていたりします。 

 

Q.借用証に借り手のサインしかなくて、しかも借り手の印鑑が押されてないじゃない!この借用証は無効では?

A.契約ではなく、借用証ですから、貸し手の署名や記名押印は不要です。また、借り手も押印は必ずしも必要ということではありません。貸し手としては、客観性を担保するために、借り手の印鑑+印鑑証明書があると安心できますが、借り手の署名(サイン)があれば本人によるものとは分かるので、それで済ますことはありえます。裁判沙汰になりそうな時に第三者に対抗できればいい。あくまで貸し手の判断です。

 

Q.借金の金額欄の前に空白がある……。不自然では?

A.仮にそういう借用証を見たら、それは不自然というより、借り手の注意力が乏しいと考えたほうがいいと思います。借金の事実についてはその借用証しか客観的に証明するものがありません。借用証を保管している貸し手が金額欄の前に勝手に数字を書き加える可能性もあります。それを避けるために、普通の人は空白を設けないようにします。そういうことに注意が及ばない人は、社会人としては未熟な人だと考えたほうがいいかも。

 

Q.金利の支払いや弁済日が決まっていない借用証なんて存在するの?

A.個人から個人であれば無利息でも寄付行為とは問われません。(親子とかなら贈与と思われる可能性もありますが。) また、弁済日を書かないことも問題ありません。

ちなみに、弁済日を書いていないと、民法第591条1項で、貸し手の方がある程度の期間を決めて返してくれとお願いできることになりますので、借り手としてはそれ相応の弁済日を設定しておきたいところです。

金額が大きい借用証で弁済日を定めていないなんてことがあれば、その借り手はよほど人を信用している、いい人か、お金持ちなんでしょうね。

第591条

1. 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。 

2. 借主は、いつでも返還をすることができる。

 

 Q.この借用証、どう考えても偽造だと思うんだけど……。私文書偽造罪(刑法第159条)に当たらないの?

 A.偽造には、その文書を作る権限がない時に作る行為=有形偽造と、その文書を作る権限がある人が事実と異なる内容の文書を作る行為=無形偽造の2つがあるとされています。そして、無形偽造であれば私文書偽造罪には該当しません。

借用証ならば私文書であり、借り手が借用証を作るものですし、仮にその借用証で貸し手の署名や押印を偽造していなければ有形偽造には当たらなそうです。そうすると、仮に無形偽造だとしても、そもそも私文書偽造罪にはならない。

ただ、この下の相談では、仮に無形偽造であって私文書偽造には当てはまらなくとも、内容を偽るのは詐欺罪に該当するかもという回答はありますね。

でたらめの住所を書く事は私文書偽造になりますか? | 弁護士ドットコム

なお、topisyuは一般論として回答を作っていますので、仮にある特定の借用証について私文書偽造に該当するか確認したいのであれば、お友達の弁護士にでも聞いてもらった方がいいと思います。

文書偽造の罪

 

余談

一見して不自然だったり、稚拙に見える文書でもちゃんと考えて作られている可能性はあります。その不自然さを糾弾する際には十分勉強してからでないと、逆に批判者が足元を掬われることがあるので、気を付けられたほうがいいかもしれません。